TokyoRentコラム

Vol.68江戸時代からの伝統を継ぐ紀尾井町、グランドプリンスホテル赤坂跡地に東京ガーデンテラス紀尾井町誕生

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千代田区紀尾井町に誕生する東京ガーデンテラス紀尾井町

写真 東京ガーデンテラス紀尾井町 全体像

東京のお屋敷街には大きく分けて2種類があります。ひとつは江戸時代に大名が住んでいた屋敷跡を利用したもので、柳沢吉保の下屋敷だった六義園隣接の大和郷(現在の文京区本駒込)、紀伊徳川家の下屋敷があった渋谷区松濤などが挙げられます。この類型としては明治時代の華族が住んでいた屋敷跡を開発した住宅地もあります。もうひとつは、そもそもは何もなかった場所を大正末期から昭和前半にかけて新たに切り拓いて作られた住宅地で大田区、世田谷区にまたがる田園調布や世田谷区成城学園、桜新町などです。同じお屋敷街といっても歴史的には異なるものがあるのです。

さて、前者の屋敷地の中でも、都心にあり、かつ住んでいた人たちの格の高さで知られるのが千代田区紀尾井町です。ここは江戸切絵図にある通り、紀尾井坂を挟んで徳川御三家のうちの紀伊徳川家、尾張徳川家、そして彦根井伊家の屋敷があった場所。明治以降は伏見宮邸、北白川宮邸などがありました。

その紀尾井町にそびえ、長らく赤坂の風景として親しまれたグランドプリンスホテル赤坂が今春、レジデンスはもちろん、オフィス、ホテル、商業、カンファレンスの入る複合施設として生まれ変わります。紀尾井町にはこれまでホテルや大学があるばかりでした。それだけに、東京ガーデンテラス紀尾井町への注目度は非常に高いものがあります。どのような施設が生まれるのか、今回は全体計画を中心にご紹介します。

都心でも珍しい強固な地盤上に建設

 国立国会図書館デジタルコレクションより、江戸切絵図「外桜田永田町絵図」

「紀尾井町」由来

紀尾井町の由来を古地図に見る嘉永2~文久2年(1849~1862年)に刊行された尾張屋清七による江戸切絵図28図のうちの1枚。武家、寺社、町家、川・堀・海、山林・原・土手などを分かりやすく色分け、上屋敷、中屋敷、下屋敷、木戸など記号で表現している。多色遣いの錦絵的な親しみやすさから広く用いられ、江戸期の街の様子を知るものとしてしばしば使われている。紀尾井町の由来となった三家の敷地は他家と比べても広大で、大身であったことがよく分かる

紀尾井町の歴史については前述しましたが、東京の歴史のある街は同時に地盤が強固な場所でもあります。今と違い、建物が少なかった時代には安定した高台は誰にでも分かりましたから、大名屋敷や古刹と呼ばれるような寺社は必ず、そうした土地に建てられたのです。今回、東京ガーデンテラス紀尾井町が立地するのは、江戸城、今の皇居があるのと同じ、約15万年前~7万年前にできた段丘の上。しかも、上総層という極めて安定した地盤が地表近くにあるという場所です。「そのため、レジデンス棟の一部の杭を除き、ほとんどがべた基礎で建てられています。また、レジデンス棟においては免震層を設け、万全の上に万全を期しています」(西武プロパティーズビル運営部・大塚武史氏)。

最近のオフィスビルやマンションは大半が杭基礎を採用しているので、それが一般的と思われているかもしれませんが、地盤が安定している場所であればべた基礎のほうが安全で信頼できます。ただ、近年の開発ではそこまで地盤が強固な立地が得られないのが実情です。その意味で東京ガーデンテラス紀尾井町は歴史に加え、地盤的な観点からも数少ない土地というわけです。

交通利便性に加え、自然環境にも恵まれた立地

東京ガーデンテラスエリア周辺地図エリア周辺地図ちょうど港区と千代田区の境に立地し、鉄道だけでなく、国道246号、外堀通りが交差する交通の要衝。複数の行政関連施設に加え、国立劇場や日枝神社などにも近く、文化、歴史が楽しめるロケーションだ

東京メトロ銀座線、同丸ノ内線赤坂見附駅、半蔵門線、南北線、有楽町線永田町駅と2駅、5路線が使える交通の利便性、赤坂見附を中心とした商業施設の集積による生活の利便性は言うまでもありませんが、特筆すべきなのは都心にありながら豊かな自然環境にも恵まれている点でしょう。

赤坂見附駅との間には弁慶濠の水辺があり、国道246号を挟んでは衆議院・参議院議長公邸、紀尾井坂を挟んではホテルニューオータニの緑が望めますし、敷地の北側には元々あった樹木等を移植した緑豊かな空間が整備される予定です。また、隣接する清水谷公園はかつて霊水が出たという言い伝えもある、都心とは思えない趣のある場所です。一般には相容れない利便性と自然環境がここまで両立するのは珍しく、都心でも有数の緑が多い場所となるはずです。

複合開発で生まれる利便性、多様性にホテルとの連携も魅力

東京ガーデンテラス 商業棟のメインエントランスオフィス・ホテル棟のメインエントランス緑豊富な広場やオープンカフェなども作られる予定。地域の憩いの場となりそうだ

約3万㎡(約9200坪)という広大な敷地内には地下で繋がるオフィス・ホテル棟、レジデンス棟が建設され、低層部で商業ゾーンが両棟にまたがり配置されており、地下で永田町駅と接続します。

商業ゾーンには「レストランやカフェを中心に利便施設も含め様々なお店が出店予定です」(西武プロパティーズビル運営部・大塚武史氏)。完成の暁には永田町駅、赤坂見附駅間に飲食・商業エリアが誕生することになるわけで、住んでいる人はもちろん、界隈で働く人にとっての利便性も大きくアップすることになりそうです。特にこれまでまとまった飲食店の少なかった永田町、平河町界隈で働く人にとっては朗報と言えるでしょう。

今回開業するザ・プリンスギャラリー東京紀尾井町は、プリンスホテルズ&リゾーツが運営するホテルの中で、初のオフィス・商業施設複合型ホテルです。客室数は250室、レストランは和食とイタリアンテイストの洋食の2店のほか、2つのバーが用意されます。

そしてグランドプリンスホテル赤坂といえば旧館が有名でしたが、この建物は曳家(ひきや)の上、改装し竣工当時のしつらえを復原し、赤坂プリンス クラシックハウスとして再び利用されることになります。「カフェ、バーとしても利用できるカジュアルなフレンチレストランや、かつて旧館にあったバー ナポレオンも復活します。増築する宴会場では、ウェディングにも利用でき、すでにウェディングには多くのお問い合わせを頂いており、歴史ある建物を残すことの価値を実感しています」(同上)。

赤坂プリンス クラシックハウス 全体像赤坂プリンス クラシックハウス 全体像赤坂プリンス クラシックハウスは曳家の上、竣工時のしつらえを復原するとともに、免震対策を施し、万が一に備えた。

80年以上前に建てられた赤坂プリンス クラシックハウスの佇まいを見れば、言葉による説明がなくとも、この土地の歴史が理解できるというものです。そこで結婚式を挙げたいという人が多いのも当然かもしれません。また、赤坂プリンス クラシックハウスはレジデンス棟に住む人にも、部屋からの眺望といった点で大きな影響を与えそうです。

高層階が人気なのはよくある話ですが、この物件の場合には低層も人気で、それは向きによって見えるものが違うためです。その中でも特に人気なのが北側、赤坂プリンス クラシックハウスの見える部屋です。窓の外に洋館が見える部屋など、他の場所ではありえません。この物件ならではの眺望です」(同上)。ちなみに南側は官庁街を、西側はお濠、国道246号から渋谷方面が臨めるそうで、どの風景を選ぶか、お好み次第です。

もうひとつ、レジデンス棟でホテルのサービスを享受できる予定になっている点も見逃せません。詳細が決まるのはまだこれからだそうですが、ランドリーサービスやケータリングその他、いろいろなサービスが可能でしょうから、期待したいところです。

本格を重んじるホテルとは対照的にオフィスには若い成長企業、IT大手のヤフーが入居する予定で、街の活性化に期待がかかります。「このところ、大きな開発が無かったこともあり、赤坂・紀尾井町周辺にはいささか停滞している感もありました。そこに活気のある企業が進出することで街の雰囲気も変わってくるのではないでしょうか」(同上)。

2016年の春、レジデンス棟の詳細をレポートしたコラムはこちら

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【文・構成】

中川寛子(なかがわひろこ)
借りる、買う、貸す、建てるなど、住まいに関する雑誌、書籍、インターネットなどの編集に携わること20数年。
長らく表参道に暮らし、都心居住の快適さを身をもって実感している。All About「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。

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