リノベーションという言葉が一般的になっています。実際、都心の賃貸物件でも「リノベーション完了」などと表記される物件が目につくようになっています。こうした物件にはどんなメリットがあるのでしょう。
経年によるミスマッチを調整、住む人のニーズに応えるリノベーション
ここ数年、リノベーションという言葉が一般的になってきました。リフォームが元の姿を回復するという意味だとすると、リノベーションはそこに新たな価値を付加することとされ、単に壁紙を貼り直す、設備を更新する以上の意味があるとされます。実際の賃貸市場ではどのように活用されているのか、都心を中心に2万戸以上の部屋を所有するアドバンス・レジデンス投資法人で話を聞いてきました。
「私たちが考えるリノベーションはトレンドから外れたデザイン・仕様が原因となって起こる、入居者のニーズと物件のミスマッチを修正するためのものです。まず、ニーズとしては“都心の、利便性の高い一等地の、充実した設備の部屋に住みたい”というものがあります。しかし、住宅は一般的には利便性の高いところから建設されます。そのため、東京都心部ではどうしても築年数を重ねた物件がシェアを占め、建物自体には問題がないとしても、設備が古くなってしまう、あるいは間取りが今のライフスタイルに合致しなくなる、そんな事態が起きてしまいます。そこを調整して、より住む人のニーズにあった住戸にしていく、それが私たちにとってのリノベーションだと考えています」(ADインベストメント・マネジメント株式会社 エンジニアリング部 池田栄一氏)。
都心部からまず初めにマンション開発がされてきたため、築年数の経過した物件が多いことに加え、リーマンショック以降、新築着工が減っているという事情があります。ストックをどう活用するかを考えると、リノベーションが必要になるというわけです。
「一昔前はある一定の築年を経過した物件は、建物自体のスクラップ&ビルドということになったのでしょうが、今は「改修」の技術が進化してきています。部分的な設備の更新も安価に、容易にできるようになっていますし、取り壊しと建設で環境に負荷をかけることが疑問視されるようにもなっています。実際、鉄筋コンクリートの躯体は一般的には60年、実際にはそれ以上持ちます。そこで、5年・10年で変わる設備の仕様・間取り・デザインを更新していく、つまり、ニーズに合わせてリノベーションをするほうが現実的と思われるようになっているのです」。
ここ10年、20年で私たちの生活は大きく変わっていますが、特に都心部ほど住まいのトレンドの移り変わりは早いそうです。それは「都心に住みたいという人は常に時代の先を意識しているところがあり、いつも、何が新しいかを考えています。住まい選びでも今のスタンダードはあって当然と考えられているのだろうと思います」。都心ほど、新しさが求められるわけです。
そのため、設備や収納などといった実用面だけでなく、デザイン面での改修も行われています。「よりすっきりしたシャープなデザインが好まれる昨今、そのニーズに合わせると同時に、独自性を出したいと玄関周りのデザインには力を入れています」 。
具体的には玄関の床をタイル張りにしたり、壁の一部の色を変えたり、木の壁にしたりなどなど。ドアを開けた時に大きなインパクトがあるデザインとなっており、その印象の強さが他と違う部屋に住みたいというニーズに合致しているといえます。
外観、共用部を変えることで、住む人の満足度をアップ
住戸内を変えるだけがリノベーションではありません。同社では築後12~15年後に行われる大規模修繕時などを利用して、建物の外観、共用部などの更新も行っています。「共用部、専有部を合わせたリノベーションを意識するようになったのはここ4~5年のこと。部屋の中だけが良くても、建物、特にエントランスなどが暗く、築年数を感じさせてしまう物件では、入居者の満足度は高まらないからです」 。
具体的にはエントランスの照明、壁の色などを変えて明るくする、外のガラスの手すりにシートを張って全体がうっすら青く見えるようにする、外壁の色や庇の形状を変える、間接照明を取り入れてグレード感を出すなど工夫は様々。リノベーション前後の写真を比べると、明らかに印象が変わっていることが分かります。
建物の外観、エントランスは建物のグレードが出る部分でもあり、物件を検討する際の資料には写真が必ず掲載されます。それを見た印象が良ければ、下見に行ってみようと思いますし、行ってみて、その雰囲気が良ければ決めようかと思うはず。「下見時、外観を見て暗い気分になり、エントランスを入ってさらに暗くなって……というような物件では、新しい生活を楽しめません。帰ってくる度に明るい雰囲気で入居者を迎える、住んで気持ちの良い物件となるよう心がけています」。
こうしたリノベーションが積み重ねられていけば、立地はいいけれど、設備、間取りなどに癖のある築年数の経った物件が再生され、借りる側の選択肢は広がっていきます。貸す側はリノベーションで借りてもらいやすくすることで資産維持を狙っているわけですが、それは借りる側にとってのメリットにもなっているわけです。また、新築よりは抑え目な賃料も借りる側には魅力でしょう。
学生向けのリノベーションデザインコンぺを開催
自社でのリノベーションに加え、2015年3月には「都市の水辺を住みこなす。」をテーマに、芝浦にあるレジディア芝浦を対象とした「第1回RESIDIAリノベーションデザイン賃貸住環境学生コンペ」を実施しています。「築20年超のファミリータイプのマンションで、元々は和室のある3DK。これまでにも田の字型の間取りを、和室から洋室に変えたり、キッチンの位置を変え広いLDKにしたり、カーペットをフローリングにする、設備を一式更新し、トイレをウォッシュレットにするなど手を入れてきましたが、もっと思い切ったアイデアを広く求めたいと、コンペを開催しました」。
初の試みということで、関係者は応募が集まるかやきもきしたそうですが、海外からの応募も含め80件超の作品が集まりました。「いずれも質が高く、どれを残すか審査員の中でも意見が割れ、激論になったようです」。
最優秀賞は京都工芸繊維大学工芸科学部の山口昇さんの「時間のミルフィーユ」。室内を高さの違う収納で仕切ることで、乳幼児にとっては仕切りのないワンルーム、成長して背が伸びていくにつれて、仕切りが登場してくるというアイデアが秀逸で審査委員長を務めたブルースタジオの大島芳彦さんも「革新的」と評価しています。
その他、全体で5作品が選ばれており、そのうちの1作品がレジディア芝浦に登場する予定です。コンペまではやったとしても、実際に施工まで結びつけるのはJリートとしては初めて。こうした先進性が他の部屋にも生かされていけば、住む側がより楽しめる部屋が生まれてくることになるはず。期待したいところです。
取材物件・取材協力
【取材物件】レジディアタワー麻布十番
【取材協力】アドバンス・レジデンス投資法人、ADインベストメント・マネジメント株式会社(現:伊藤忠リート・マネジメント株式会社)