子どものいる家庭なら、引っ越し時にもっとも気になるのは子どもにとっての環境でしょう。今回はその中でも教育に絞って都心の事情を見ていきます。
【千代田区】【港区】歴史ある公立小中学校があり、質・人気も高い
他の道府県に比べ、東京都では私立志向が高いと言われ、小学校から私立を志向する家庭が少なくありません。その一方で都心には越境してでも通わせたいと言われる、歴史ある公立有名校が点在しています。たとえば、千代田区にある番町小学校や港区にある青南小学校、同白金小学校などはその好例。1960年代くらいまでは番町小学校、麹町中学校を経て、あるいは青南小学校、青山中学校を経て、日比谷高校、東京大学と進学するのがエリートのモデルコースを言われていたことがあるほどです。
これらの学校に共通するのは歴史。たとえば、番町小学校は1871年(明治4年)に学制発布以前に東京府が設立した官立六校のうちのひとつで、2015年時点で創立144年になります。青南小学校はそれよりも遅く、1906年(明治39年)設立ですが、それでも109年の歴史があります。卒業生には歴史上の有名人も含め、著名な人が多く、その伝統は今も受け継がれていると聞きます。
その理由は街がどのように発展してきたかを考えれば一目瞭然です。日本の場合、多くの都市は江戸時代に城を中心に作られており、城にもっとも近いエリアには身分の高い武士などが居住し、その周辺に町人が住むエリアが広がり、さらに外には農村が続くという形になっています。古くは教育を必要とし、その意義を知っていた人たちが街の中心、つまり都心に多く住んでいたわけです。明治維新以降に作られた学校も同様に都心部や地域の中心地など、歴史のある地域から順に作られており、そうした経緯と矜持(きょうじ)が都心の公立校に今も生きているのです。
また、港区の公立小中学校には、各国大使館や外資系企業勤務者の子弟が多く通うという事情もあり、国際的な雰囲気があるのも特徴です。最近、注目の集まっているインターナショナルスクールも港区内に3校、千代田区内に1校あり、幼保のプレスクールとなるとかなりの数に。人種の異なる人が集まる都会ならではの教育が可能なのです。
【目黒区】【世田谷区】学園イメージは五島慶太によって形成された
都心3区以外でファミリーに人気なのは目黒区、世田谷区ですが、このエリアの教育事情にはひとつ、共通するポイントがあります。それはいずれも東急電鉄の沿線ということ。東急の事実上の創始者である五島慶太は沿線に学校を誘致することに熱心だったことで知られており、1954年には関東大震災で被災した東京工業大学を蔵前から大岡山に移転させています。続く1929年には慶應義塾大学を日吉に、1931年には日本医科大学を武蔵小杉近くに、さらに1936年には東京府の青山師範学校を世田谷区下馬に誘致しています。目黒区、世田谷区を中心とする東急各沿線に学校の多いエリアというイメージがあり、教育に関心のある人が多く集まっているのは、五島慶太による戦略だったともいえるかもしれません。
実際、どちらの区でも私立志向は強いものの、目黒区、世田谷区ともに地元の学習院と称されることもある独自の校風で知られる大岡山小学校(目黒区)、桜町小学校(世田谷区)のような学校があったり、学区内に国家公務員宿舎があり、帰国子女が多いため、文科省の研究校となっている東山中学校(目黒区)があるなど、公教育の質の高さには定評があります。
小中学校だけでなく、筑波大学附属駒場中学校・同高等学校、東京学芸大学付属校高校、都立駒場高校、都立国際高等学校など、ハイレベルな国公立高校が集まっているのもこのエリアの特徴です。
都心で子育てにはメリットが多い
ここまで千代田区、港区、目黒区、世田谷区を中心に都心には歴史を背景にしたハイレベルな公立学校が多いことをご紹介しましたが、都心で子育てをするメリットはそれだけに留まりません。独自の新しい施策が始まるのも都心近くの自治体からということが多いのです。たとえば、小中一貫校が始まったのは品川区でしたし、区立初の中高一貫校は千代田区の九段中等教育学校でした。独自科目「日本語」に取り組む世田谷区、読書指導スタッフを用意したり、小中学生を海外に派遣する港区など、取り組みは自治体のよってさまざまですが、教育熱心であることだけは共通です。
もちろん、都心の、利便性の良い場所に住めば公立以外でも、通いたい学校に通いやすいというメリットもあります。学校以外でも塾、予備校やその他のお稽古事などの選択肢も豊富です。また、美術館や博物館なども身近ですから、都心での暮らしには学校の勉強以外にも様々な学びがあるのではないでしょうか。
一方で遊びの場が少ないのではと気にする人もいますが、都心でも注意をしてみれば公園は少なからずあるもの。また、世田谷区や港区が子どもがやりたいことを自分自身の手で実現していく冒険遊び場(プレーパーク)づくりに取り組むなど、行政も遊びの場を増やす努力を続けています。放課後の学校を遊び場、学びの場として開放する施策を行っている自治体も多いので、友達と走り回る経験は都心でも十分にできるはずです。
今回は千代田区、港区、目黒区、世田谷区を中心に取り上げましたが、都心では他自治体も独自施策に取り組む例が見られます。どんな教育を行っているか、区、教育委員会のホームページなどで見られますから、ぜひ一度チェック、我が家の教育方針に会った街を選んでください。