高級賃貸のリニューアル事例「六本木グリーンテラス」の意図を聞く

六本木の喧噪から一本奥まった閑静な住宅街に佇む「六本木グリーンテラス」が大規模な共用部のリニューアル工事を行っています。長く住む人も多い愛される物件をどう変えようとしているのでしょう。入居者がいる中での改修の難しさも含めて、お伺いしました。

六本木グリーンテラス
賑やかな印象のある六本木だが、住むならばやはり、落ち着いた雰囲気・環境を選びたいという人も多く、六本木グリーンテラスは竣工以来そうした方々に選ばれ続けてきた。長く住む人が多いのは評価の証
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トレンド、まちの人気度アップに合わせて選ばれる物件に改修

「2002年に竣工した六本木グリーンテラスは今年で築17年。鹿島建設の設計・施工、しっかりした構造躯体に平均で170㎡を超えるゆったりした間取りは時を経ても変わらぬ価値を保ち続けますが、残念ながらインテリアやデザインのトレンドは移り変わるもの。白を基調にした明るいトーンにポップな色を差し色にした既存のインテリアは今見るとやや古めかしい印象も。そこで物件の運用会社の「プレミア・リート・アドバイザーズ」とPM会社の「アール・エー・アセット・マネジメント」で協力しながら思い切ったリニューアル工事を行うことにしました。

この物件に限らず、所有する物件では12~15年くらいを目途に大規模修繕を行っていますが、今回の改修はそれとは異なり、バリューアップが目的です。竣工当時のインテリアの流行はベージュや白が基本で、全体的に明るく淡い色の印象でした。年数を経て、それが外観の重厚な雰囲気とそぐわなくなってきている上に、今は木目を生かしたウッディで落ち着いた色調の仕上げがトレンドとなっています。そのためか、内見は多くの方がいらっしゃるのに契約に至らない、といったことも、大きな改修の後押しとなりました」(プレミア・リート・アドバイザーズ株式会社 投資運用本部運用管理部 渡邉祐樹氏)。

「もうひとつ、六本木という街自体の変化も改修を決めた要因でした。竣工時の六本木は居住エリアとしては現在ほど認知されておりませんでしたが、この十数年で大きく変わりました。再開発でハイグレードなタワーマンションなどが建ち、住宅ストックも増加し、その結果として競合物件も増えてきているのです。

また、かつて六本木は、繁華街としての印象が強く、居住エリアとしてのニーズや高級住宅というイメージなどは、麻布などに比べ大きく水を開けられていると言われていましたが、最近は住む場所としての人気もぐっと高まっています。六本木を選ぶ人が増えているからこそ、この物件を選んでもらえるようにという思いを込めています」。

リニューアル前の共用部
既存の風除室からフロントデスク、ラウンジなど。ホテルライクで温かみはあるものの、多少軽やかに感じられる。そこに木目の重厚感や寛いだ雰囲気、昨今のトレンドを取り入れたリゾート感覚を盛り込んだ改修が行われた

木目調部材を多用、落ち着いた色調で重厚感も

では、どのような方針で改修が行われたのでしょうか。

「今回のリニューアル工事ではレイアウトは変えておりませんが、見える範囲の内装はほぼ全て変えました。都心でありながら低層の落ち着いた雰囲気を求める方のニーズに合わせ、ステイタスと心地よさを感じるインテリアを目指しています。リゾートホテルのラウンジといえば分かりやすいでしょうか。敷地緑化率が40%と高く、グリーンテラスという物件名も意識して全体に木目調の内装部材を多用し、自然を感じられるように草木のモチーフもアクセントにしました」。

ところどころに「和」のテイストも入れられています。例えば、エントランスの正面やフロントデスクの背後には木の格子を配し、ラウンジに置かれたサイドテーブルもそのイメージをリフレイン。端正な和の美を印象づけています。これは、入居者の約半数を占める外国人を意識したものです。また、左官仕上げの壁にも同様の配慮。質感、陰影に職人による手作りの良さを感じます。

イメージパース
リゾートの雰囲気がテーマとなっており、我が家に帰って来たというくつろぎ感を演出
リニューアル後のラウンジとホール
柔らかい形のペンダントライトや草花をモチーフにした壁面の間接照明など、光の巧みな使い方にも注目。また、ペンダントライトにはBGM一体型LEDを採用し、天井から音のシャワーが

間接照明も今回の改修で積極的に取り入れたもの。最近はホテルでも照明を落とし、落ち着いた佇まいが人気ですが、その辺りを意識して、穏やかでゆったりした気分になれるような空間になっています。

一方、この物件らしい個性も考慮しました。単色の明るいカーペットであまり特徴がなかったエレベーターホールは、全体にシックな色調のものに張替えて引き締まった空間に。また、ロビーや各階のエレベーターホールの各所にウッドブラインドを設置し、リゾート感を感じられる雰囲気を作り個性を演出しています。

イメージパース
各住戸の玄関周辺。全体にシックな色合いを使用し上品で落ち着いた空間に
リニューアル後の共用廊下
各戸の玄関脇の壁面は、石目調のパネルをアクセントにしてメリハリを付けるとともに、傷つきやすい玄関回りの保護も

見えないところにもこだわり多数

目に見えないところも変えてきています。最近では省エネ性能にこだわる物件が増えていますが、同物件でも今回の改修を期に省エネルギーや環境負荷の少ない資機材の使用といった環境配慮に加え、環境・社会への配慮がなされた不動産(Green Building)に対して付与される「DBJ(日本政策投資銀行)グリーンビルディング認証において、3スターを取得しています。

最近では投資家が物件を判断する際の指標として徐々に浸透しつつある「DBJグリーンビルディング認証」ですが、現在取得が進んでいるのは主にオフィスビルであり、既存物件で、かつ築年が経過した住宅での取得はまだ例が少なく、積極的な取り組みと言えます。

同評価システムでは防災やコミュニティへの配慮等を含む様々な評価を行っており、ソフト面の充実もプラスに働くとのことで、今後は現在のコンシェルジュのサービスメニューを更に追加し、より顧客満足度の高いサービスにしていくことも検討されているそうです。

また、今回は共有部のリニューアル工事でしたが、各居室内も退居の度にグレードアップを実施、節水タイプのトイレを導入するなど少しずつ建物全体として省エネ性能の高い、環境配慮型の住まいに変わってきているそうです。

居住中の工事にはノウハウが必要

さて、今回の工事は2019年7月から約3ヶ月の期間で行われましたが、居住者のいる中での工事にはノウハウが必要とのこと。同物件では小さな子どものいる家庭も多いため、例えば誤って塗り作業を終えたばかりの壁に触ったりしないように配慮し、適宜工程表をアップデートしながら、現場にはコーンを立てて注意喚起を行い、工事日程などの重要事項は日本語と英語を交えて手紙と電話などで細かく伝達することで、工事は無事に進行しています。音や匂いなどに敏感に反応される方もいらっしゃいますから、細心の注意が必要です。

「このようなリニューアル工事の実施など、マーケットの変化やトレンドを意識しながら賃貸物件を適宜アップデートし続けることは、物件価値の維持向上を図るためには必要なことであり、マーケットが良好で、比較的修繕予算が確保しやすい今のタイミングは工事を実施する好機でもありました。

既に賃料が上昇しているとはいえ、六本木はまだまだニーズ、賃料ともに伸びる余地があると考えています。特に同物件のように築年が経過し、競争力が鈍化していた物件では、本来のポテンシャルを改めて引き出す、あるいはマーケット水準へのキャッチアップという点がとても重要で、今回のリニューアル工事においても、そのような目的や意図を明確にして実施しています」。

イメージパース
左は風除室、右はコンシェルジュデスク
リニューアル後のエントランスホール
全体を通して共通するのは木目を生かした質感とグレード感。特にコンシェルジュデスクは天井にも木目調をリフレイン、印象を強めている。縦の格子が醸し出す和のテイストもポイント

【現地レポート】写真では分からない豊かな質感が特徴

リニューアル工事終了後の現地を訪れてきました。六本木交差点の喧噪を背に向かうと、周囲は低層の建物が中心の静かな場所。シックな石の上に輝く銀色のレジデンスサインを見ながらエントランスを入ると右手にフロントデスク、正面に住居入口、そして左手にホール、ラウンジが広がっており、この空間がなにより大きく変わっていました。

以前に比べ、改修後は入ったところから暖かく、柔らかい印象に。木を多用した空間に間接照明の光が陰影を与えており、より立体的にも感じます。

特に大きく変わったのはホールの奥のラウンジ。以前はオフィスビルのロビーのようでしたが、改修後は竹籠を思わせるペンダントライトなどもあって、リゾートホテルのような趣に。低めのソファが配され、とても落ち着く空間になっていました。今後はラウンジの植栽にも手を入れるとのことですから、さらに自然を感じる、寛げる場になることでしょう。

面白かったのはラウンジのペンダントライトがスピーカーをも兼ねているという点。以前は壁面に設けられた棚にスピーカーが置かれていたそうですが、技術が進化するとモノの姿が消え、インテリアの自由度が増すというわけです。頭上からシャワーのように降って来る音だからでしょうか、それほどの音量ではないのに、隅々にもよく聞こえていました。

住居への入り口にはフロントデスクと同じ木の格子が採用されているのですが、実際に行ってみて感じたのは格子背面の壁の立体的な質感です。表面にある小さな凹凸に光が反射、控えめながらもきらきら煌めくのです。写真では伝えることが難しいでしょうが、人間の目はこうしたものも敏感に捉えます。廊下の左官仕上げの壁面も同様で、直接見ることで感じられる上質さは行ってみないと分からないものかもしれません。

ラウンジ
エントランス
共用部のサイン

廊下に敷かれたカーペットは以前のグレー単色とは異なり、茶、ベージュを基調にした抽象柄が入ったものに。1階、2階以上で色違いの配色を採用し、1階はシックに、上階は明るい雰囲気となっています。壁際にはアクセントとして濃い色目のカーペットが配されており、メリハリのある空間となっていました。

あまり目立たない場所ながら、駐車場へ向かうエレベーターホール、駐輪場も改修されていました。エレベーターホールでは床材が明るい色目に張り替えられており、駐輪場ではサイクルラックが新設されすっきりしたそうです。

ちなみに同物件の駐車場は住戸と近く、使い勝手が良いと評価されているとか。規模が大きい物件の場合、駐車場から住戸まで遠いことがあり、逆に小規模な物件だと台数がないことも。日常的に車を利用する方にとっては住戸と車の距離はチェックしたい点かもしれません。

また、駐車場がセキュリティラインの内側にあるのは当然ですが、駐輪場も同様にキーがないと入れない場所に配されているのも嬉しいところ。最近では高額なロードバイクを趣味にしている方も増えているそうですが、そうした方なら駐輪場のセキュリティも気にして住まいを選んでいただきたいところです。

共用廊下
駐輪場

取材物件・取材協力

【取材物件】六本木グリーンテラス
【取材協力】プレミア・リート・アドバイザーズ株式会社(現:NTT都市開発投資顧問株式会社)

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