渋谷駅から田園都市線で3駅と都心近くにありながら、緑にも恵まれた静かな住宅地、世田谷区駒沢。玉川通りの喧騒から少し離れたところに人目を惹く一画があります。ガーデンテラス駒沢。1997年に建設が始まった緑の中庭を囲むテラスハウス・一戸建て19戸からなる区画です。2020年から行われたリノベーションによって加えられた新たな魅力を見学してきました。
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広大な敷地を利用、大事に維持されてきた希少なコンパウンド
ガーデンテラス駒沢は、この地に長らく居住してきた大地主・眞井家の18代目がアメリカ・オレゴン州のポートランドなどを視察し、1997年から本家のあった場所を利用して建設してきたコンパウンドです。
「コンパウンドとは海外の住宅地ではよく見かける敷地入口にゲートを設け、共有の中庭を囲むように住居を配するもので、日本でもいくつかは存在しています。しかしながら、ガーデンテラス駒沢の敷地面積1000坪という広大さは建設時から今に至るまででみても有数の規模ですし、この10数年で希少性はさらに増した」と管理にあたる株式会社ケン・プロパティマネジメント 不動産事業部長の土屋豪氏は言います。
「リーマンショックの後から東日本大震災までの間に東京都内のコンパウンドは半分ほどに減っています。経済状況の変化に加え、代替わりなどが要因でしょう。ところがガーデンテラス駒沢は維持管理に手をかけてきたことに加え、今の暮らしに合わせたバリューアップが行われてきています」。
そもそも、日本では賃貸専用に、しかも海外から建材を輸入するなどして建てられた質の高い一戸建ては非常に珍しい存在です。一般には自分で建てた家、建売で購入した家が転勤などを理由に貸し出されることが多いのですが、個性が強すぎて使いにくい、質に期待できないなど住まいにこだわる人には使いづらいこともしばしば。市場全体から見てガーデンテラス駒沢は特筆すべき物件というわけです。
建替えよりも大規模リノベーションを選択
1997年2月に第1期13戸、2006年2月第2期6戸が完成、現在の姿となったガーデンテラス駒沢ですが、今から5年ほど前に建替えの計画が持ち上がりました。
第1期はその時点で築後20年以上になっており、第2期も10年余。第1期は木造パネル工法、第2期は木造在来工法で、木質系の住宅としてはそろそろ抜本的な改修を考えても良い時期。その修繕に多額の費用がかかるなら、第1期のうちの7棟を取り壊して中庭などと合わせて3階建て3棟を建てたらどうだろうという計画でした。
「もともと3分の1ほどしか容積率を使っていない余裕のある建て方をしていたため、計画自体は十分に可能でした。中庭があまり使われていないという課題もありました。
しかし、この土地は本家のあった大事な土地で、そこにぎっしり建物を詰め込むのはしのびない。後の代に手を入れられる余地を残しておきたいという想いもありました。
また、3階建てを建てると既存の住宅からの庭の眺望が変わってしまいますし、新しい建物は庭とは分離した建て方を検討していたため、新しい入居者は庭の魅力を享受できません。それではこの土地のポテンシャルを生かせません。
そこで私はリノベーションで計画的に手を入れる場合と建替時それぞれのキャッシュフローをシミュレーション。数字でリノベーションのメリットを周囲に説明しました」と眞井家の19代目、斎壽氏。
建物と庭、庭そのものの在り方も再検討
改修は2020年2月から2021年8月、そして2022年8月から2023年6月と2期に分けて行われました。一般にはリノベーションというと建物だけに手を入れることが想定されますが、ガーデンテラス駒沢では建物と庭のバランス、庭そのものの全体像も含めて手が入れられています。
建物と庭のバランスでは7戸のウッドデッキを拡張、庭と住戸の距離を縮め、住戸の外部空間を広げています。たとえば入口ゲートの脇にある住戸は玄関前に桜の大木があり、もともとはその脇を通って階段を上り、玄関を入るという形でした。それをデッキを玄関横に新設することで桜が我が家のデッキ脇にあるような形に改修。お住まいの方にとっては住まいが広がったような感覚になっていることでしょう。
あるいは敷地の一番西側にある住戸ではその住戸と隣地との境にあった屋敷林を除却。風通し、日当たりを良くした上で建物裏手に広いウッドデッキが作られました。周囲からは見えない、隠れ家のようなウッドデッキでは、夏場に子ども達がプールを出して楽しんでいるのだそう。子どものいる家庭ならうれしい環境です。敷地全体も明るくなりました。
拡張が行われなかった住戸でもウッドデッキはすべて補修あるいは交換されており、どの住戸でもアウトドアのリビングなどとして使える空間になっています。
また、以前は低木が植えられていて遊びにくかった庭には芝生が張られ、一部にはこんもりした小山が作られました。雪の日にはそこでの雪遊びが子ども達に大人気とか。共有の中庭は、車はもちろん住んでいる人以外が入ってくることもない場所ですから、遊び場としては安心、安全で理想的です。
「子ども達が仲良くなって一緒に中庭でサッカーをやったり、池でメダカを覗き込んだりしている姿をよく見かけます。子ども達だけでなく、入居者同士、一緒にお茶をしていることもあり、緩やかなコミュニティがあることを実感します」と眞井氏。
ランドスケープデザイナーが入り、かつては和洋半々の趣だった庭は、現在はどちらかといえば洋の雰囲気が強い明るい印象に。その一方で池や灯籠など土地の歴史を伝える部分もバランスよく残されています。
外装、屋根、構造体に設備、インテリアも一新
住戸では第1期の13戸すべての外装、屋根、構造体に修繕の手が入り、キッチンや風呂、洗面所その他の水回りや冷暖房設備なども交換されています。
「建設当初は外国人向けの住宅として位置づけられていたため、輸入品の洗濯機、冷蔵庫が設置されていましたが、現在の入居者は7~8割が日本人。そのため、今は洗濯機、冷蔵庫は置かず、食洗機のみを設置しています。
また、住宅の居住性能を高めるため、調光LED照明、床暖房を導入し、セキュリティに配慮して玄関ドアの交換も行いました。細かいところではドアノブを交換するなどしており、性能は大きく向上しています」と眞井氏。
それ以上に変わったのはインテリア。間取りそのものは当初から欧米の住宅に倣った広さを確保したゆったりしたものだったため、そこは変わってはいないのですが、見た目の印象は変わりました。
「当初はクロス仕上げでしたが、海外は塗装が主流。また、現在では手に入りにくい高品質な材が使われているので、それを生かすために塗装仕上げとし、住戸によっては部屋それぞれに壁の色を変えてあります」と土屋氏。
以前は白を基調に木の材質を生かしたインテリアが主体になっていましたが、取材で見せていただいた2023年にフルリノベーションが終わった2棟は実に微妙なニュアンスの色が使われており、どちらも魅力的。
どの部屋にもブルー、グリーン、ベージュなどといった一言では表現できないような色が使われており、キッチンでは木部の色に合わせて同じトーンの、でも、さらに淡い色のタイル。いずれもうっとりするほど見事な色遣いです。
中庭が住宅、敷地全体の価値上昇に大きく貢献
さらに魅力的なのはその室内から眺める中庭です。住戸は中庭や他の住戸の見え方を計算して建てられているため、どの窓からも絵になる風景だけが見えるようになっているのです。
家自体が100㎡前後から200㎡超までと広いことに加え、室内にいても中庭を感じるため、視覚的には実際以上の広がり、開放感があります。さらに外に出ればそれをより感じるウッドデッキ。ここに住むと住宅の広さの感覚、意味が少し変わるかもしれません。
世の中には住戸の広さだけが住宅の価値と考える人もいるようですが、人は住戸の中だけで暮らしているわけではありません。特にコンパウンドであれば敷地全体の完成度、充実度は生活の質を左右するというわけです。
こうした改修の結果、ガーデンテラス駒沢の評価は大きくアップしています。改修で再生される前には賃料の坪単価は平均で1万円ちょっとだったそうですが、再生後にはそれが1万5000円近くにまで上昇しているとのこと。
「この土地は品川用水に面した、周囲からは高台になっている場所。また、周辺にはペットオーナーやスポーツ好きには聖地でもある駒沢公園や、通学圏には多数の私立高校があり、インターナショナルスクールのバスも走っています。多くの人に選ばれる場所ですから、その価値をより高める住宅であること、時代が変化しても選ばれるようにしていくことは大事と考えています」と眞井氏。
敷地外から見ているだけでも他と違う住まいであることが明確に分かるガーデンテラス駒沢ですが、住宅の質にこだわる人であれば、ぜひ一度を訪れてみていただきたいもの。オーナーが意図する空間の上質さが体感できます。
プロジェクト概要
【企画】株式会社ケン・コーポレーション 企画部 西川淳
【デザイン】一級建築士事務所クリストファーズ株式会社
取材物件・取材協力
【取材物件】ガーデンテラス駒沢
【取材協力】株式会社サナイコーポレーション、株式会社ケン・プロパティマネジメント