マンションの地震対策基礎知識

国内外で地震が頻発しています。これまで以上に地震への備えが必要と感じていらっしゃる方も多いのでは……。そこで気になるのは、建物の地震対策。どのような対策が講じられているのか、その効果や違いについてみていきましょう。

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「新耐震基準」準拠の建物なら倒壊はしない

現在建てられているマンションその他の建造物は、1981年に施行された耐震基準、「新耐震基準」に則って建てられています。この基準の目的は、地震の強度によって異なり、よく起こる強さの地震に対しては建物の被害が軽くて済むことが目標となります。

しかし、何十年、百年に一度起こるかどうかという強さの地震に対しては、建物にある程度の被害が出てもいいから、建物の中もしくは周辺にいる人に被害が出ないようにすることが目標とされています。つまり、新耐震基準の目標は地震によって建物が壊れないようにすることではなく、建物を使う人間の安全を確保することなのです。

この新耐震基準で建てられていれば、阪神淡路大震災級の地震でも建物が倒壊する可能性は極めて低いとされています。実際、阪神淡路大震災で倒壊した鉄筋コンクリート造の多くは、新耐震以前に建てられたもの。具体的にはピロティ部分や中間層、帯筋(柱の中に配される鉄筋)の不足から来る柱の被害などが多く見られましたが、新耐震ではこうした部分は強化されています。

地震対策は「耐震」「制震」「免震」の3種類

新耐震基準を基本として、建物の地震対策は進化を続けています。従来からある地震対策は「耐震」と呼ばれ、建物そのものを強く、頑丈に作ることで地震に備えるというもの。しかし、最近では、地震のエネルギーを建物内に取り込み、揺れを制御しようという「制震」、建物と揺れを切り離すことで室内の安全をも守ろうという「免震」も一般化しつつあります。

では、それぞれの地震対策の特徴を見てみましょう。

【耐震】柱梁、耐震壁などを厚くして、強度をUP

まずは耐震です。これは最もベーシックな地震対策で、特別なコストはかかりません。柱、梁、耐震壁などを厚くして、強度を強め、地震力に対処します。柱の鉄筋を継ぎ目がなく、せん断されにくい溶接閉鎖型せん断補強筋にし、壁内には二重に配筋を施すなど、強度向上への工夫もたゆまなく行われています。ただし、震度6を超える地震では外壁に亀裂が入るなど、躯体への損傷が起こる可能性は否定できません。また、建物自体の揺れは他より大きく、家具の転倒などが起こります。

【制震】地震エネルギーを制御器(ダンパー)に吸収させる

制震は建物内に取り込んだ地震エネルギーを制御器(ダンパー)に吸収させることで、揺れをセーブしようというもの。揺れの30%前後を低減させると言われています。壁や窓にダンパーを取り付けたり、屋上や柱の中に制震装置を設置するなど、方法はさまざま。 耐震より、建物、室内への影響は少なくなります。

【免震】積層ゴム(アイソレーター)に吸収させる

免震は建物と地盤の間に免震層を設け、ここに地震エネルギーを集中させることで、建物の揺れを低減させようというもの。免震層にはゴムシートと鋼板を交互に重ねた積層ゴム(アイソレーター)が設置され、地震時には水平方向に動いて地震の揺れをゆっくりしたものに変えます。そのため、横揺れは50%以上低減され、家具の倒壊などの心配は少なくなります。ただし、縦方向の揺れにはあまり効果は内容です。

ちなみに、最近、制震、免震が目につくようになっているのは、タワーマンションの増加の影響でもあります。タワーでは一般のマンションより、地震などの揺れが増幅されやすく、特に中層階では揺れが激しくなる傾向があります。そのため、それを緩和するため、制震、免震を取り入れ、揺れを穏やかにしようというわけです。

一番安全なのはどの方法?

では、以上の3つの地震対策でどれが最も安全なのでしょう? 揺れが少ないという意味では免震を挙げる人が多いのですが、実際には構造上の対策単体で優劣を付けることは不可能です。例えば、首都圏の軟弱な地盤の地域では揺れの周期が長くなるため、ゆっくり長く揺れる免震は必ずしも万全ではないとする意見があります。逆に地盤が固く強固な場所では、耐震でも十分な強度という説もあります。地震については、まだまだ分からない点が多いのです。

また、いずれの地震対策も今の時点では実験値としての強度。免震だから、家具の転倒はないはずと言われていても、絶対に転倒しないという保証はありません。自然の力が人間の予測をしばしば上回ってきたことを考えれば、対策は対策として知っておきたいものの、自ら備える意識は忘れずにいたいもの。最後に身を守ってくれるのは、構造ではなく、自分の意識なのです。

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