今知っておきたい、マンションの防災事情「六本木ヒルズレジデンス」

六本木ヒルズレジデンス
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目指したのは震災時に逃げ込める安全な街

地震が起きた場合、その時点で一番安全な場所で揺れをしのぎ、揺れが収まってから避難するというのが一般的に推奨される行動です。しかし、森ビルの考え方はそれとは多少異なります。森ビルの建物から逃げ出す必要はない、逆に近隣にいたなら建物、敷地内に逃げ込んで欲しい、そのほうが安全である。これが森ビルが目指している防災都市です。

そのため、六本木ヒルズはランドプランから防災が考えられています。敷地内を歩くと各棟の間は広々、ゆったり取られ、植栽が潤いを感じさせてくれますが、あれは単に見た目や環境への配慮というだけではありません。災害時、六本木ヒルズに住む人、働く人だけでなく、近隣から避難してくる人をも受け入れるためのオープンスペースなのです。いつもはコンサートやイベント等に使われているアリーナも同様。楽しみ、憩いの場であると同時に救いの場ともなるのです。

建物には規模、形状や用途などに合わせた地震対策が施されています。同じ六本木ヒルズ内でもレジデンスB棟、C棟は制振、D棟は免震といった具合で、阪神・淡路大震災レベルの揺れに加え、今後発生が想定される首都直下型地震、東海・東南海地震など揺れ方の異なる地震も考慮、建物に合わせてベストと思われる最新技術が採用されています。

元々は小規模な住宅が密集、防災面でも建替えが必要だった六本木6丁目地域
現在の六本木ヒルズ。高層化することで緑地を増やし、景観的にも、防災的にも生まれ変わった街に
免震構造のD棟では建物は鋼棒ダンパー(右)と積層ゴム(左)の上に乗っており、地面とは直接接していない

最大の特徴は独自の震災対策要綱による人的な備え

地震発生後、次の課題はライフライン停止への対応です。まず、電気。六本木ヒルズは都市ガスを利用した独自の発電システムを備えており、平時でも自前で電力の供給を行っています。地震で都市ガス供給が止まった場合には東京電力から非常時のバックアップを受ける契約になっており、それもストップという事態に備え、灯油も備蓄されています。これを利用すれば、電気、ガスが止まった状況下でも3日間は電力供給が続けられる計算です。

六本木ヒルズでは日常的に自前の発電システムを利用しており、災害時にはさらに2重の備えが用意されている

次に水。これについては六本木ヒルズ内2箇所に災害用井戸が備えられており、生活用水などを供給する予定。アークヒルズ、表参道ヒルズ、オランダヒルズ、愛宕グリーンヒルズ、元麻布ヒルズなどにも同様に井戸が設置されています。

六本木ヒルズ2箇所に加え、主な森ビル物件には同様の井戸が設置されており、災害時には生活用水などを供給する

食料、飲料水、医薬品、その他の生活用品は地下倉庫に備蓄されています。六本木ヒルズ内に用意されているのは約10万食で、森ビル全体では約20万食。民間企業では最大といっても良いほどの規模で、居住者、勤務者に来街者も含め3日間は凌げる量です。

備蓄品の中には非常用トイレも含まれています。また、さくら坂公園(港区提供公園)内には、簡易トイレが設置できるマンホールを整備。この排水管は下水道接続部、下水道本管ともに耐震仕様となっています。

水や乾パン、クラッカー、非常用ライス、缶詰などの食料品がぎっしり詰まれた備蓄倉庫。2箇所に分けて蓄えられている

最大の特徴は独自の震災対策要綱による人的な備え

ここまでの説明でも十分安全な住まい、街という印象ですが、森ビル最大の震災対策は独自の震災対策要綱に基づいた人による備え。人間を守るのは最終的には人間というのが基本姿勢なのです。そのため、六本木ヒルズでは1月、9月に総合防災訓練が行われていますが、これはほんの序の口。防災訓練とは別に東京消防庁主催の救命講習の受講、公共交通期間が停止した場合に備えた徒歩出退社訓練、災害発生初期の情報収集、対策本部立ち上げのための要員訓練としての震災宿直制度など、各種の対策が日常的に行われているのです。

今年9月に六本木ヒルズアリーナで行われた防災訓練では250人余の社員がヘルメットにつなぎ姿で集合、救命、止血から炊き出しまで様々な内容の訓練が行われた

また、防災訓練で使用する安全靴、つなぎ服、ヘルメットなどは全社員に支給され、さらに、近隣に居住する社員には、自宅にも支給されており、就業時間外の災害にも備える体制を整えています。それぞれの社員がどこに駆けつけるか、住まいの場所などに応じて担当が決められています。もちろん、それを可能にするため、社員の安否確認システムが構築されており、こちらの訓練は年3回。就業時間内の家族安否確認機能も備えているそうです。

被害状況を迅速に把握し、すばやい復旧作業を可能にするために開発された災害ポータルサイトも独自の試み。元々は震災だけを目的に作られていたものを、 2008年4月にすべての自然災害やそれに派生する人的災害、テロその他までを含めた総合災害ポータルサイトとしてリニューアルし、運用されています。ちなみに入居者に向けての連絡には住戸内のデジタルセキュリティーインターホンや電話などが利用されています。

炊き出しのための訓練。バーナーを利用して火を起こしているところ。日常では使わない器具は使ってみることが大事

こうした、災害に万全な体制を持つ住宅は決して安くはないかもしれません。しかし、住まいが現在の暮らしだけでなく、明日の暮らしや家族の命そのものをも支えるものであると考えると、そしてその命がかけがえのないものであるとすると、それはある種必要経費。住まいの広さや質に加え、管理運営する会社の災害に対する考えや人材教育の姿勢、周辺環境やインフラの整備によってどれだけの安心が担保されるか、地震国日本での住まい選びではその点も考慮する必要があるようです。

応急手当の訓練。その他、井戸や心肺蘇生AEDの操作の仕方、ジャッキを使った救出法、担架での救急搬送法などの訓練も行われる

取材物件・取材協力

【取材物件】六本木ヒルズレジデンス
【取材協力】森ビル株式会社

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