30余年前の最先端にこれからの機能を追加「リバーシティ21」の変わらない魅力、加わった魅力

30余年前、日本の住宅に大きな影響を与えた物件が登場しました。中央区佃のリバーシティ21です。湾岸の大規模開発の先駆であり、タワーマンション初期のシンボル的存在でもあり、眺望や景観に価値があること、暮らし方、働き方の変化を予兆させる間取りの登場となりました。その他、リバーシティ21はさまざまな試み、発見の場でもありました。そのリバーシティ21で共用部の大規模リノベーションが行われました。単に見た目を新しくするリフォームではなく、これまでにない機能を付加、これからの暮らしに合わせたリノベーションが行われたと聞き、見学に行ってきました。

リバーシティ21
それぞれに異なるデザインになっているものの、全体を意識、調和のとれた景観となっているリバーシティ21。日本の水辺の代表的な風景として知られている
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我が家に「働く」「遊ぶ」機能をプラスする改修

リバーシティ21は石川島播磨重工業東京工場跡地を利用、住宅・都市整備公団(現:都市再生機構 / 愛称:UR都市機構)、東京都住宅局(現:東京都都市整備局)、東京都住宅供給公社、三井不動産が官公民連携で1986年の着工以降、約20年をかけて開発してきた隅田川沿いの大規模開発。同時期に開発が行われていたニューヨークのバッテリー・パーク・シティやロンドンのドックランズなどを参考に生まれた環境に調和した景観は、いまや東京の水辺のランドマークのひとつとなっています。ことに桜の季節の美しさはよく知られたところです。

そのリバーシティ21の賃貸棟イーストタワーズの共用部で大規模なリノベーションが行われました。経年によって劣化した部分に手を入れるだけではなく、これまでなかった機能をプラスし、これからの暮らしを快適にするための改修です。今後の住み心地を大きく変えるリノベーションのコンセプトは『1.5Place』。

これはひとの居場所を「1st Place」(我が家)、働き、学ぶための場としての「2nd Place」(会社や学校)、リラックスするための「3rd Place」(公園やカフェなど)といった3種類に分け、そのうちのファーストプレイスである我が家に「働く、学ぶ」「リラックスする」という他の2つの居場所の機能を半分プラスするという考え方。具体的にはイーストタワーズの中に働く場、リラックスする場などをプラス、我が家の機能を拡張するというものです。

コロナ禍で働き方や暮らし方が変わり、家の中にも働く、学ぶ、リラックスするなど複数の機能が求められるようになりましたが、住宅内にそうした機能を新たに取り入れるのは簡単な話ではありません。しかし、大規模な物件なら空間を融通する、転換することで新たな機能を取り入れることができるわけです。

コンセプト
ファーストプレイスである我が家にそれ以外の機能を付加するという概念を図化したもの
コンセプト
この考えに基づいて共用部分が整備された

無味乾燥な会議室を魅力的な憩いの3室に

まず、見学したのは10号棟。37階建てのタワーで1階と37階に新たな空間が作られました。1階には以前からあった会議室などを改装、3種類の部屋が誕生しました。

エントランスとは反対側の奥にある100㎡ほどのFamily Room(キッズラウンジ)は元会議室。椅子とテーブルだけが置かれていた殺風景な部屋は、壁際に暖かな雰囲気の本棚が並ぶ空間に生まれ変わっています。選書は書籍の目利きでは定評のある六本木の書店「文喫」に依頼。親と子が一緒に楽しめ、読む人に新しい世界が広がるラインナップをということで揃えてもらったもの。年に4回、追加で購入していく予定です。

本棚には国旗やお菓子の図鑑、世界の人たちを知るための本やプログラミングの解説書などジャンルの異なる本が並べられており、中には魚の切り身を集めた本のように「こんな本があるんだ!」というような一冊も。関心を引くポップが添えられています。

Family Room(キッズラウンジ)
プロによる選書はさすがの一言。添えられたポップも効果的で、思わず手に取りたくなる本が揃う

この部屋は本もインテリアも魅力的なのですが、それにもましてうれしいのが窓からの風景。室内から木々や水辺が見えるようになっており、桜の季節には室内にいながらにして花見ができそう。喧騒を避けてのんびり桜を眺められるのは入居者の特権でしょう。以前はずっとブラインドが下ろされたままだったといいますから、今回のリノベーションで建物の宝が発掘されたともいえそうです。

Family Room(キッズラウンジ)
窓からの風景にも注目。植栽の向こうには水辺も見えており、静かに風景を楽しめる

お向かいの部屋はTATAMI-うさぎの間-と名付けられた和室。主室10畳に前室、床の間もあり、全体では14畳ほど。座卓と低い椅子が用意されており、料亭の個室のような雰囲気です。以前も和室だったそうで、それを今の感覚でリノベーション。子どもを連れて気兼ねなく集まる場として使えそうです。

ちなみにうさぎは襖紙の中にいるので、見学したらよく見てみてください。月島という立地から、月にうさぎという洒落でもあります。

もう1室は一面が鏡張りになったMulti Studio(多目的スタジオ)。ここも以前は武骨な会議室だったそうで、それをヨガやバレエスクールその他フィットネス系の活動ができるような空間に作り直しています。個人でオンラインエクササイズをやるのにも良さそうな空間で、利用料金は1時間500円。和室は1時間300円で、ファミリーラウンジは無料で利用できます。

Multi Studio(多目的スタジオ)
フィットネス系のアクティビティに使いやすい多目的スタジオ。運動不足の日々にはうれしい施設
サイン
各スペースに掲げられたサイン。これだけを見ても変化が感じられる

30余年変わらぬ最上階の眺望を楽しむRiver View Lounge

1階の各施設は10号棟のみならず、イーストタワーズに入居している人なら誰でも利用できますが、37階のRiver View Loungeは10号棟入居者のみが利用できる空間。全フロアリニューアルされたエレベーターホールの中でも37階は特別仕様にリニューアルされており、間接照明が品格を感じさせる落ち着いた作りになっています。

ラウンジは大きなキッチンを備えた、椅子、テーブルなどが配された空間で、どの席からも眺望が楽しめます。足元の隅田川、ご近所の東京都心部から東京スカイツリーまでを望むことができ、天気の良い日は窓外を眺めているだけで時間が過ぎてしまいそうです。

River View Lounge
入口付近からのラウンジ全景。窓辺に座ると眺望が広がり、仕事をしに来たのを忘れてしまいそう

読書や仕事、勉強の場としては無料で使え、貸切利用時のみ1時間3000円の利用料金がかかります。パーティー利用では20人ほど入るのではないでしょうか。ただし、住宅内の空間ですから、夜はご近所に迷惑をかけないように利用は20時半まで。朝は9時からの利用になります。

River View Lounge
カウンター席、ソファ席、デスク席が用意されており、その日の気分、やりたいことで席を選べる

ところで、タワーマンションといえば眺望も売りですが、リバーシティ21で驚くのはこの30余年、眺望が変わっていない部屋が多いという点です。建物がまだ建っていない頃から何度も取材で訪れており、知人が住んでいたことから住戸もいくつか見学しているのですが、その当時から敷地内の建物を除けば眺望を遮る建物は出現していません。

建設が始まった当時から比べると湾岸エリアにはタワーマンションが増加しましたが、川を挟んでいるため、影響はほぼありません。逆に夜景がきれいになったなどプラスに働いているかもしれないほど。隣の敷地にタワーマンションが建つことでせっかくの眺望が遮られる例が少なくないことを考えると、リバーシティ21は希少な立地にあることが分かります。

River View Loungeからの眺望
ラウンジからの眺望。左手前の佃小学校・佃中学校から、中央の隅田川や佃大橋を挟んで、明石町・築地方面を望む

働く場の創出、戸外空間のリニューアルも実施

10号棟の共用部分に続いては中庭、6号棟のコワーキングスペースを見学しました。イーストタワーズのみならず、リバーシティ21の敷地内には数々のオブジェが飾られているのですが、そのうちには経年による劣化が目立つものも出始めています。

そこで今回の改装では劣化したオブジェを撤去、新たに子どもたちにも楽しめるスペースとして中央にジャカランダ(世界三大花木のひとつでノウゼンカズラ科の落葉高木)を植えた階段状の広場を新設しています。見ていると、子どもたちがごろごろと寝転がったり、飛び上がったりと意図通りに活用されている様子。中庭にはそれ以外にも木を使った階段状のスペース、ベンチなどが増設されており、戸外で一息つくには良い空間になっています。

6号棟2階に作られたコワーキングスペースは、近年増加する自宅の近くに働く場が欲しいというニーズに応えたもの。テーブル席、カウンター席、ソファ席、オンライン会議等に使えるテレブース席に加えてミーティングスペースも設けられています。本棚の置かれたラウンジ的な空間もあり、集中するにはちょうど良いコンパクトな場所です。入居者はテーブル席、カウンター席、テレブースを無料で利用できます。

ワーキングスペース
コワーキングスペース全景。我が家からすぐのところに仕事に使える場があるのは便利

中庭からは階段を下りてメインエントランスに向かいます。この階段の正面、中央にもかつてはオブジェが飾られていましたが、こちらも撤去。現在はスペインから輸入されたという樹齢200年ものオリーブの古木がシンボルツリーとして植えられています。歴史を感じさせる堂々たる大木を囲んでベンチが設えられており、入れ替わり立ち替わり様々な人が座っては陽光を楽しんでいたのが印象的でした。

エントランス周りその他にも細やかな配慮

最後にメインエントランスの両側にある7号棟、8号棟のエントランスを見せていただいたのですが、実はその前に見せていただいた10号棟もエントランスや郵便受けその他細かい部分が改修されています。

たとえば、30年前の10号棟エントランスは家具や植栽のない茫漠とした場所でしたが、現在は緑が置かれ、ところどころにデンマークのインテリアショップ・BoConceptの家具などが配されており、来客とちょっとした打ち合わせができるような空間。オートロックの扉を入ったところにもソファセットが置かれています。

エントランス自体は2017年に一度手を入れられており、今回はそれをさらにグレードアップ。現代のセンス、おもてなしの雰囲気を加えたものになっています。オートロック内側の郵便受けも、スチールに南京錠といったレトロなものから黒のスタイリッシュなダイヤル式に交換、掲示板もゆくゆくはデジタルサイネージに切り替えていく予定。エレベーター内の床、壁その他さまざまなところに手が入っています。ただ、いずれも仕上がりが自然で、聞かないと手を入れた箇所は分かりません。

戻って7号棟、8号棟ですが、変化は外からでも分かります。エントランス周りに緑がたっぷり配され、7号棟には木の柱も。

また、今回のリノベーションのコンセプトである『1.5Place』を示す、球と半円を組み合わせた照明が掲げられてもいます。この照明は、ぱっと見た時にはただの丸い照明のようですが、よく見ると必ず二つがセット。細かい気配りがされているわけです。

オリーブ広場
夜のオリーブ広場。オリーブの古木を中心に背後の階段、両脇の建物の照明がバランスよく配されており、一幅の絵のような風景になっている

7号棟、8号棟のエントランスはそれぞれ異なるインテリアになっており、7号棟はコンパクトながら石を使った迫力ある空間。8号棟は天井の高い、どこかクラシカルな雰囲気もある空間。どちらもグレーの外壁に緑が映え、大人の雰囲気があります。どちらが好みかはその人次第。現地を見て選んでください。

また、この土地の歴史、地域特性を抽出し、それを各棟に配しているのもデザイン上のポイントです。それが「長屋」「造船」「新旧」の言葉で、7号棟は長屋から古材を、8号棟は造船から鉄板を、10号棟は新旧からコントラストをデザインテーマにしているのだとか。土地への尊敬の念が伺えます。

生まれ変わった共用部に広さも魅力

工事は2021年9月から開始、入居されている住戸には資料を配布し、希望者には説明会も開催したそうです。入居者の方々はどう変わるのだろうと思っていらっしゃったはず。特に子どもたちは日々変わっていく姿が面白かったようで「椅子ができた~」「今日はこれだ~」と変化した部分を指摘しあっていたとか。

住んでいるうちに目に見えて共用部がグレードアップしたことから、退去の予定を取りやめた入居者もいらっしゃるそうで、これから共用部各室の利用が始まれば、物件自体の人気もアップしそうです。

ちなみにリバーシティ21イーストタワーズは37㎡~101㎡、間取りでいえば1Kから3SLDKまでの多種な間取りが揃っています。今の平均的な専有面積からすると1Kで40~50㎡、さらに大きな部屋もあるなど広めの部屋が多いことが特徴で、ゆとりを求める人なら選択肢に入れたいところ。

モデルルーム
各戸については共用部分とは別に適宜改装が行われており、モデルルームも用意されているので、まずは見学に行ってみたい

中央区立佃島小中学校がすぐ目の前にあり、東京駅まではバスで10分。最寄り駅の東京メトロ有楽町線・都営大江戸線月島駅からは徒歩5分。子どもが走り回れる敷地の豊かさは最近の開発では見られないもので、その点を考えると単身、ディンクスのみならず、子どものいるご家庭にも楽しい暮らしができる場といえそうです。

取材物件・取材協力

【取材物件】リバーシティ21イーストタワーズ
【取材協力】株式会社ケン・プロパティマネジメント

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