【サンゲツ】見本帳ディレクターに聞く、「光を纏うカーテン」の開発秘話 | EDITION

高級賃貸TOP EDITION(記事一覧)【サンゲツ】見本帳ディレクターに聞く、「光を纏うカーテン」の開発秘話

【サンゲツ】見本帳ディレクターに聞く、「光を纏うカーテン」の開発秘話

TOKYO RENTが紹介する上質な住まい。そこに本当にふさわしいアイテムやサービスを通して「ラグジュアリー」を解き明かすスペシャルコンテンツ。 

今回のテーマは「カーテン」。TOKYO RENT編集部は、国内屈指のインテリアブランドメーカー『サンゲツ』のショールームへ伺いました。 前回の記事では、カーテン選びのエキスパートであるサンゲツのインテリアアドバイザーに、お部屋別のドレープカーテンとシアーカーテンの組み合わせを実演いただきました。 

後編となる今回は、サンゲツのカーテン「2024-2028 STRINGS(ストリングス)」の開発秘話を、商品開発を手掛けた吉田かおり様に伺います。デザインと機能性、多彩な質感を生み出す加工や織りのテクニックなど、サンゲツの開発力を結集して目指した「ラグジュアリー」の本質とは? 

INDEX

サンゲツカーテンの最高峰「STRINGS」とは

——サンゲツのカーテン見本帳「STRINGS」について教えてください。

吉田:サンゲツは1849年に表具師として暖簾を掲げました。日本の住宅は襖メインでしたが、戦後、いち早く壁紙に参入。日本のインテリアを豊かにすることを目指し、カーテン、カーペットなどの床材、椅子生地と、トータルに空間を彩ることができる商品をお届けしてきました。

現在、レジデンシャル向けのカーテン見本帳として、価格帯の異なる3種類の見本帳を発刊しています。

見本帳「STRINGS」は、サンゲツのカーテンのなかでも品質とデザインにこだわった高価格帯の商品を多く収録しています。2024年秋の最新版では302柄、667点を収録し、うち新作約230点を新たに開発しました。 

SC7531

——ターゲットとなる顧客はどのような方々でしょうか。

吉田:暮らしやインテリアにこだわり、良いものをお部屋全体に取り入れることで生活のクオリティを上げたいと思われる方々です。ご自身の美意識を持ちながらも、インテリア選びにあたっては専門のコーディネーターからアドバイスを受けることも多いですね。 

そうした点から、プロフェッショナルの方々の目からも確かな品質を誇り「お勧めしたい」と思う商品を開発する必要がありました。サンゲツの開発力を結集し、意匠性・機能性のニーズを満たした唯一無二のカーテンをつくることができればきっと受け入れていただけると考えてスタートした見本帳が今回の新しい「STRINGS」なのです。 

——今回の「STRINGS」で約230点の新作を開発するにあたって、どのようなコンセプトを立てましたか。 

吉田:ひとつは新しい「ラグジュアリー」の提案です。 

いままで「高級感」といえば、見た目にも豪華で重厚なファブリックがメインでした。例えばビロード地にダマスク柄が織り込まれたようなカーテンですね。しかしながら、コロナ禍を経てライフスタイルが多様化し、求められるラグジュアリーの形も変化しているのではないでしょうか。身近で居心地がよく、五感に訴えるようなものに囲まれて暮らしていきたいという価値観が生まれているように感じます。TOKYO RENTに掲載されている物件からもそうしたニーズを感じますが、いかがでしょうか? 

——ラグジュアリーの嗜好はひとつではなく、ひとりひとりが自分の感性を大切にしながら選択し定義していくもの。まさに、TOKYO RENTが訴えたい価値観です。

SC7006

ご紹介した商品

SC7531
優美な草木柄のデザインをオパールプリントで表現、透け感が高くフロントシアーとしてもおすすめです。
SC7006
プリントの技法を駆使したグラデーションのリーフ柄、ダイナミックに空間を演出します。

光を「通す/さえぎる」デザインの創意工夫

吉田かおり 様
ファブリックユニット 商品開発課 プロフェッショナル

——「STRINGS」の商品を見ながら、開発のポイントをお聞かせいただきたいと思います。まずは「デザイン」の面での創意工夫を教えてください。 

吉田:新開発のデザイン面で特に注力したのは「遮光カーテン」と「シアーカーテンです。

——遮光カーテンは、寝室でよく使われる厚手のカーテンですね。

吉田:はい。近年ではリビング用のカーテンとしても求められるケースが多くなっているんです。 そこで今回の「STRINGS」では、プリントや柄などに頼らず糸の素材感や織りの組織を駆使することで、無地調でありながら奥行きのある豊かなテクスチャーを持った「リビングに映える遮光カーテン」を作ることにチャレンジしました。 

——いままで「光を通さない」という機能面が主に着目されていた遮光カーテンに、より質感やデザイン性が求められるようになったということですね。 

吉田:開発にはいくつかの壁がありました。遮光機能を持たせるためには、黒い糸を織り込む必要があり、織の組織としても、光を通しにくい平坦で単調な表情になりやすいという傾向があります。

そのため、もっと表情豊かなテクスチャーを持つ遮光カーテンを作りたいと思いました。その中の一つになりますが、光沢感のあるモール糸を使用し、織りの組織と染めを工夫しテクスチャー感を表現しました。試作の修正を繰り返して凹凸感を工夫し、配色も豊富に揃えました。私たちが「テクスチャードドレーパリー」と名づけたファブリックの一つです。

SC7214

——遮光カーテンには見えない豊かなテクスチャー感です。シアーカーテンはいかがでしょうか。 

吉田:シアーカーテンは、遮光カーテンとは逆に「光を通す」カーテンです。ドレープカーテンを開けている日中の時間帯でも、シアーは目に入りますよね。 

近年は、防犯のため、窓にシャッターをつける方も多くなってきています。そうしたケースでは、お部屋の中のカーテンはシアー1枚のみになり、部屋の印象を決める要素になります。お客様からも高いデザイン性を要望されることが多くなっていました。そこで開発したのがデザインシアーの「光を纏う」シリーズです。 

——ショールームでも特に印象に残っています。シアーカーテンに美しい模様が織り込まれ、光と影も含めてデザインされているようでした。 

吉田:ありがとうございます。「光を纏う」はシアーカーテンが生み出す「暮らしの豊かさ」を伝えたくて開発した商品なんです。 

素材や柄を組み合わせることで、カーテンを透かしてお部屋に入る光をコントロールし、木漏れ日のように差し込んだり、光の移ろいから時間の流れを感じたり。忙しく無機質になりがちな都市生活に自然を取り込み、シアーと光によって生み出される現象に楽しみや安らぎを感じていただきたいですね。 

SC7002・SC7007

ご紹介した商品

SC7214
全面に光沢あるモール糸を使用した遮光カーテン。高級感ある表情はお部屋をラグジュアリーに演出します。
SC7002
フロントカットと収縮加工を施したこだわりの表情、タイル柄のような透け感が美しいファブリックです。
SC7007
木漏れ日のやわらかなシルエットをプリントで表現。やさしい陽ざしに包まれた心地よさを感じます。

ファブリックの裏側に隠された機能

——機能面での開発のポイントはいかがでしょうか。特に高級マンションならではの機能性などがあればぜひ教えてください。 

吉田:デザイン性の高い「遮熱機能」があるシアーカーテンの開発が大きなチャレンジでした。室内温度の上昇を抑制する機能を持ったカーテンです。

——窓が大きく日当たりに優れた高級マンションでは、必需品とも言えるものですね。 

吉田:いままでも遮熱機能を持つシアーカーテンはありましたが、これらの多くはカーテンの裏面(窓側)に光沢糸を織り込み直射日光を反射させることで、熱が室内に入るのを軽減しています。しかしながら、その特性上どうしても裏面がギラギラし、また、厚みもあることから、質感が気になる、外の景色を感じられないというお客様の声を多くいただいていました。 

カラートーンにも大きな課題がありました。熱を吸収する黒やネイビーなどの暗い色は使えず、白などの明るい色調がメインになります。 

景色を感じることができるよう透け感があり、そして、色使いも自由なままで遮熱機能を持たせることができないだろうか?と考えました。さらに、光と影のシルエットを楽しめるようなデザイン性のあるカーテンを実現したいと。

——きわめてハードルが高いように思えます。どのように実現したのでしょうか。 

吉田:私たちがたどり着いたのは、積水ナノコートテクノロジー株式会社の「masaTM」という加工でした。裏面にナノレベルのステンレスをコーティングする「スパッタリング加工」で、太陽光の室内への透過を軽減する技術です。masaTMならオーガンジーのような薄い生地も風合いを変えることなく、デザイン性と遮熱機能の両立を叶えることができました。

色味は、金属の色が作用することで、深味のある独特の色彩を生みだします。特に新しくリリースした「SC7620」は、糸を部分的に溶かして柄を表現するオパール加工で葉っぱの柄をモダンにデザインしました。一枚吊りで窓辺を印象的に演出するシアーカーテンとしても評価が高い商品です。 

SC7620・SC7622
SC7620

ご紹介した商品

SC7620
金属コーティングと染色加工技術により生み出された深みある色彩、リゾート感漂うリーフ柄をシックな雰囲気に仕上げました。
SC7622
細い分繊糸で織られた繊細な表情、メタリック感ある独特の色彩が特徴のモダンなシアーです。

開発チームが試行錯誤した「カーテンのサステナビリティ」

——近年のラグジュアリーの要素としては「サステナビリティ」も重要です。

吉田:そうですね。今回の「STRINGS」では「自社カーテンの再生」にチャレンジしました。 

基本的な手法としてはサンゲツの廃番未使用商品を「反毛(はんもう)」という繊維を分解する技術でワタに戻し、新しいカーテンに使用しているのですが、きわめて難しい開発でした。 

——既存商品を廃棄せず、新商品の材料に再利用したのですね。どのような技術的なハードルがあったのでしょうか? 

吉田:今まで当社では、お客様が使われたサンゲツのカーテンを回収させていただき、熱エネルギーや他のマテリアルにリサイクルする「サンゲツカーテン・エコプロジェクト」という取組みをすでに行ってきました。今回初めて挑戦したのは「カーテンから新たなカーテンへ再生する」という点です。 

「反毛」は従来からある技術で、目新しいものではありません。特に課題となったのは反毛によって得られる糸の品質を常に一定に保つことが難しく、製品に加工した際に仕上がりがブレてしまうということでした。 見本帳の有効期間は数年間にわたります。長期にわたって何度も生産するためには、素材の質が一定以上でなければ商品としてお届けできません。 

開発中は、ワタが糸にならずプランを断念したこともありました。紡績、染めと、想定外のトラブルばかり。いままで無数の素材を扱ってきましたが、厳しいトライ&エラーの繰り返しでしたね。 

——すっかり身近になったリサイクルですが、そんな苦労があるとは驚きました。

吉田: 開発チームが一丸となり、協力工場と「STRINGS」のリリース直前まで試行錯誤したことは忘れられません。 

最終的には品質が安定した黒糸の素材として新商品の一部に使用することができました。まだまだベーシックな素材とは言えず、活用範囲も限られていますが、デザイナーとして誇らしいプロジェクトでした。 

自社のカーテンから新しいカーテンへリサイクルされた商品は、カーテンの見本帳の業界では当社が初の取組みかと思います。これからもサステナブルな商品開発を続けていきたいと思います。 

ご紹介した商品

SC7311
自社の未使用(廃番)のカーテン生地から作られた糸を使用、環境に配慮したエコなファブリックです。

世界からインスピレーションを集め、ラグジュアリーを発見したい

——商品に「ラグジュアリー」を宿らせるためには、何が必要なのでしょうか。

吉田:ひとりひとりに、ラグジュアリーの定義があると思います。私たちサンゲツの開発現場から言えば、ラグジュアリーとは従来の価値観にとらわれることなく「一歩先」に踏み出す意志なのではないかと思うのです。 

「STRINGS」を代表するラグジュアリーシリーズはMaison Bijoux(メゾンビジュー)です。自社や国内だけではなく、世界中の技術・素材・テクスチャーが詰まった贅沢かつ至高のファブリックコレクションです。 

いままでにないカーテンのインスピレーションを得るため、海外の展示会に足を運び、情報を集め、製造先と打ち合わせをしながら開発をしています。新しい時代に何が起きているかを自分で感じ、発見することが大切ですから。 

前作にも「Maison Bijoux」のカテゴリーはありましたが「高級=クラシック」という重厚さを感じさせる柄が大半でした。けれど、コロナ禍を越えて人々の生活スタイルや嗜好、トレンドが変わるなか、従来の「高級=クラシック」から一歩前へ進みたいという思いが、今回の「STRINGS」の少し軽やかで、ナチュラルな心地よさを感じていただける商品ラインナップに反映されています。 

SC7008
SC7008・SC7009・SC7014

ご紹介した商品

SC7008
天然繊維混のベース生地にアカンサスの葉を刺繍で表現。立体感あるテクスチャーが存在感を感じさせます。
SC7009
コットン混のベース生地にダマスク模様を刺繍で表現。多色の刺繍糸を用いた繊細なグラデーションが魅力。
SC7014
やわらかなファーが存在感あるファブリック。クッションも合わせることで、ラグジュアリーな空間を演出します。

——本日はありがとうございました。カーテンというアイテムを通して、ラグジュアリーのありかたを考えるお話でもあったと思います。リリース間もないタイミングではありますが、新しい「STRINGS」の反応はいかがでしょうか? 

吉田:お客様からは展示会を通じて、たくさんのご意見や感想を頂きました。特に喜んでいただけたのは、開発チームがこだわったシアーのデザイン性、テクスチャー感のある遮光生地などです。インテリアのプロフェッショナルの方々からもぜひお客様に勧めたいという声を多く頂き、嬉しく思っています。 

今回取材させていただいたサンゲツ品川ショールームには、多くの実物を展示しております。ぜひご自分で見て・触れていただきたいですね。 

(中央)瓦口賢志 様(西関東支社長)
(左)吉田かおり 様(ファブリックユニット 商品開発課 プロフェッショナル)
(右)小西真澄 様(西関東支社 営業二課 プロフェッショナル)

取材協力

株式会社サンゲツ

※インテリアアドバイザーへのご相談はサンゲツのサイトよりご予約をお願いいたします