耐震強度理解のための5つの基礎知識

大震災や耐震強度偽装事件以降、マンションの耐震性は住まい選びにおいて重要なポイントの一つとなっています。耐震強度偽装事件では鉄骨の量を減らして、強度の足りない建物を建設していました。では、鉄骨の量以外に建物の強度を左右する要因とはなんでしょうか?こちらではその要因を5つご紹介します。

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足元がしっかりしていなければ、地震には耐えられない

1. 地盤:古くて固い地盤上にあるほうが安心

地震に強い建物を建てるためには、地盤や基礎といった建物の足元がしっかりしていることが第一の条件です。そのために大事なのはまず立地。どんな地盤上に建っているかということです。

首都圏の地盤は多摩丘陵などに代表される、上総層群(三浦層群)、山の手の赤土層である洪積層、軟弱な地盤を代表する下町の沖積層の3種類に分けられますが、古くて固く、安全なのは前2者。ただし、都心居住を考える場合には洪積層、具体的には、古くから開発された山の手の高台を選択するのが安心ということになります。

2. 基礎:地盤にあった基礎で土台を固める

次に大事なのは、地盤に合わせた基礎。そのためには地盤調査が行われ、地盤の強さに合わせて基礎が選択されます。

主な基礎は2種類。支持層と呼ばれる強固な地盤が地表近くにあり、 また、マンションが比較的低層な場合には建物の底部をコンクリートで固めて、直接地盤で支える直接基礎が採用されることが大半です。

これに対して、支持層が地表近くにない埋立地や下町の軟弱地盤、 あるいは規模の大きな建物では杭を支持層まで打ち込む、杭基礎が採用されます。 これには現場でコンクリートを流し込む「場所打ちコンクリート杭」、工場で作った杭を埋め込む「既製杭(PC杭)」などがあり、後者のほうが精度が高いといわれています。

ここで注意したいのは杭の長さ。支持層まで深さがある場合、当然ながら杭は太く、強度を増すように設計されますが、それでも杭は縦方向にしか打たれません。建物は柱、梁、縦横に支えられていますが、杭は一方向だけ。つまり、横に揺れる地震の場合、いくら太く作られていても、途中で折れる可能性は否定できないのです。さらに、建物が大きく、異なる地盤にまたがっている場合には、どこか一部だけが折れるなどの危険性もあります。こうした事態を考えると、杭の長さは20mくらいまでが安全。数十mに及ぶような場合には、地盤も含め、万全の設計になっているかどうかの確認が必要です。

芝浦アイランド エアタワー
深さ約5mまでの基礎梁を設けて、そこから約15m深い支持層まで、国内最大級の杭を計55本打ち込んで安全性を高めている

建物本体の強さは2つの相反する力に支えられている

鉄筋コンクリートを支える2つの要素、鉄筋とコンクリートは力に対して相反する特性を持っています。コンクリートは圧縮する力に強く、引っ張られる力に弱いのですが、鉄筋は引っ張られる力に強いのです。そのため、この2つを組み合わせれば、地震などの揺れに耐えられる強度を作り出せるのです。

また、鉄筋は空気に触れると錆びて強度が落ちます。しかし、それをアルカリ性のコンクリートで覆えば、酸化は進まず、建物は長持ちします。鉄筋とコンクリートは互いを補完しあう、ベストパートナーというわけです。

芝浦アイランド ブルームタワー
建物構造の根幹となる躯体に、約100年間大規模修繕を必要としないとされる高強度のコンクリートを使用

3. 鉄筋:壁はダブル配筋、柱は溶接閉鎖型・スパイラルフープ型が理想

鉄筋が配されるのは建物を支える外壁などの構造壁と柱部分。そのうち、壁はダブル配筋が基本です。これは単純な理屈で、1本より2本が強いということ。地震時にも外壁にひび割れがしにくいと言われています。

柱は縦方向に伸びる主筋とそこに横方向に巻きつけられる帯筋という2種類の鉄筋からなります。適切な量、太さの鉄筋が必要なのはもちろん、帯筋の巻き方でも強度は異なります。強いのは帯筋の両端をあらかじめ工場で溶接、閉じておく溶接閉鎖型、あるいは長い帯筋をらせん状に主筋に巻きつけるスパイラルフープ型と呼ばれるタイプ。これに対して、帯筋を1本ずつ巻きつけ、両端をフックで留める従来型では、地震の時に鉄筋が切れるなどの被害を受ける可能性があります。

4. コンクリート:水セメント比、かぶり厚さがキーワード

コンクリートの強度を決めるのは水とセメントの割合。コンクリート中のセメントに対する水の比率を「水セメント比」と言いますが、比率が高いと水が多く、水っぽい強度の落ちるコンクリートとなります。十分な強度を保つ水セメント比の目安は50~60%です。

また、コンクリートは鉄筋の酸化防止の役割もあると前述しましたが、そのためにはある程度以上の厚さが必要です。これがかぶり厚さと呼ばれるもので、これが足りないと、コンクリートのひびから侵入した水分が鉄筋を酸化、膨張させ、覆っているコンクリートを破壊することにも。ただ、適切なかぶり厚さは床や屋根、基礎など部位によって異なるので、単純な目安を示すことはできません。

かぶり厚さとは?
鉄筋を覆っているコンクリートの厚さ。コンクリートの表面から鉄筋の表面までの距離をさす

建物本体の強さは2つの相反する力に支えられている

5. 設計・施工:建築物は現場生産、施工次第で強くも弱くも

2006年の耐震強度偽装問題では設計の重要性がクローズアップされましたが、それに加えて施工の問題も忘れてはなりません。住宅は工業製品ではなく、かなりの部分が工場で生産されるようになった今も現地で作られるものです。そのため、施工によって強度には大きな差が出ます。

例えばコンクリート。混入する石の水分やその日の湿度などによって水セメント比は微妙に変化します。また、計算どおりに水とセメントが混ぜられているかどうかは、専門家が見ても判別できません。セメントの一部を抽出して水セメント比を計測するやり方もありますが、すべてのコンクリートミキサーにそれを行っていては工事は進みません。

となると、大事なのは設計、施工会社が信頼できるかどうか。しかし、残念ながら、今回の偽装問題で、どこが信頼できる会社なのか、分からなくなってしまったのが現状です。個人的には社団法人不動産協会加入が最低限のラインと思っていますが、それだけで判断はできません。

では、どこで判断するか。施工そのものをチェックできない以上、設計を見ていくことになるのではないかと思います。具体的には住みやすさへの配慮のある設計かどうか。

「細部に神宿る」と言います。細かい点に配慮があるなら、大きなところにもあるだろう、それが設計に注視したい理由です。住みやすさへの配慮を間取りのどこで見るかについては次回以降で、ご説明いたします。

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