「フロレゾン南麻布」賃料アップでもすぐ決まるケン・コーポレーションのリノベーション。明るさ、広がりプラス遊び心がポイント
建物の維持管理では元に戻す改修ではなく、価値を上げるリノベーションが一般的になって久しいものの、本当に価値を上げた例はそれほど多くはないかもしれません。今回ご紹介するのは長期空室が続いていた物件を改修、大幅に賃料を上げて募集を開始したというもの。しかも、構造上、手を入れられない壁などもある制約の多い中での改修でした。どこが選ばれるポイントになったのか、現場で解説いただきました。

手頃さではなく価値で選ばれる物件に
舞台となった物件は南麻布の高台、傾斜地に立つ1988年竣工の6階建て。物件名も一新され、現在の名称はフロレゾン南麻布です。桜で有名な古刹・光林寺に隣接しており、緑の森の中にいるような雰囲気のある、他にない立地の物件です。
ただ、築38年ということで漏水、雨漏り、エアコンの故障などがあり、室内も古いまま。そのため、一度空室になってから半年ほども決まっていなかったそうです。といっても、その時期の募集賃料は周囲の相場からはかなりお手頃。もしかしたら、そのまま時間をかけて募集を続けていても安さから決まったかもしれません。
しかし、それで良いのかと疑問を抱いたオーナーの依頼で改修を手がけることになったのはケン・コーポレーション企画部の石山泰央シニアマネージャー、岩垂芳佳主任、営業部の川﨑方義支店長代理です。
「築30年を超すとどうしてもあちこちに不具合が出てきます。また、インテリアのテイストにも変化があり、そのままでは古臭く思われてしまうこともしばしば。そこに適切に手を入れることで築年数に関係なく、価値を上げることができます。古い建物だから賃料は安くて当たり前というのは過去の考え方。これからはきちんと手を入れることでバリューアップしていくことが賃貸経営の大事なポイントです」(川﨑支店長代理)



段差解消、エアコン移設などで高さ、広さ、明るさをプラス
では、どこにどのような考えで手を入れたかを順にご紹介していきましょう。まずはリビングルーム。41Jある半円形の、森の中にいるような印象的な空間ですが、残念ながらその広がりが活かされていませんでした。
「エントランスホールから一段下がり、ダイニングスペースはそこから再度上がるなど中途半端に高低差が設けられており、天井高は2.4m足らずと今の平均で考えるとやや低め。また、緑陰の濃さは魅力ではあるのですが、そのままだと暗く見える場合もあります。そこで空間を高く、広く、明るくして印象を変えようと考えました」(石山シニアマネージャー)
そのために床面に関しては段差を解消、全体を一体の空間としました。また、天井を上げるために建築当初から導入されていたセントラルヒーティングを廃し、個別空調にすることで空調を部屋の奥側に寄せることができてリビング中央部分の天井高を2.65mに。これなら近年の水準と比べても引けを取りません。
「高くなった折り上げ天井がさらに印象的に見えるように間接照明を設置。室内に高さ、明るさをもたらすことにしました。リビングに入ってきた時に明かりがまず目に入るようにしたのです。また、明るさと緑をエントランスホールに入ったところから感じられるようにエントランスホールとリビングの間の扉はガラスに変更しました」

天井高、照明に加えて気を使ったのは壁材。おおらかな広さが感じられるよう、キッチン側などリビング内の壁面の一部にはあえて大判の、大理石を思わせるタイルを使用しています。しかも、白でもなく、ベージュでもない実に微妙な質感を感じられる材が使われています。
「壁材のサイズ、色味をどうするかは、時間をかけて検討しました。キッチン側の壁面には以前、暖炉があったのですが、視界を分割、広がりを阻害してしまわないように撤去、タイル貼りにしました。タイル貼り以外の壁面上部にはピクチャーレールを用意しました。また、好きな場所でプロジェクターが利用できるように、リビング内の天井3か所に補強材を入れ、コンセントを設置してあります」

リビングではもうひとつ、かつては壁で塞がれていた変形なスペースも使えるようにしました。エントランスを入ったすぐのところにある空間で、使いにくいと思われたスペースも今なら有効的になる、使う楽しみを生むだろうという判断です。
「躯体の壁が出ているために生まれた変形な三角形に近い空間ですが、クリスマスツリーなど季節の品を飾っても良いでしょうし、読書や音楽のためのスペースにする手も。住む方によって使い方が変わる、そのご家族らしい空間になるはずです」


機能美にこだわったキッチンには、シックなバーコーナー
続いてリビングのお隣にあるキッチンです。オーナーからはリビングと一体にした空間にしてほしいという要望があったそうですが、リビングとの間の壁は躯体であるため、撤去ができません。そこで間取り自体は変えずにキッチンも明るく、広さが感じられる空間として作り直すことになりました。
「キッチンの位置をリビングに近い側から窓側に移動、大きな窓の前にシンクを配してキッチンに立つだけで光と緑を感じられるようにしました。壁面の収納は通常であればトールサイズにして作業のしやすい高さにオーブンなどを設置しますが、それよりも広く見えることを意識、オーブンはあえて低い位置に設置しカウンター高さが一律になるようにしました」(岩垂主任)

キッチンではもうひとつ、大きく変わった場所があります。それがセントラルヒーティングの機械室だった空間。改修によって生まれたのは黒い石貼りのバーコーナーです。間接照明に照らされた棚にはグラスや各種バーツールを置くのはもちろん、絵画や写真を飾っても映えるはず。
シンクやコンセントは正面からは見えない位置に配されています。シンクの脇に設置されているのは賃貸住宅では初めて見たグラスリンサー。製氷機も用意されており、設備は本格バー仕様です。


最新の設備を導入、リラックスできる空間を
続いては居室、ベッドルームを見ていきましょう。
ファミリーバスルームにはユニットバスを入れ、洗面所との間はガラス張りとしました。これも広さを感じていただくため。
「浴室と洗面室は同じタイルを使用、一体感を出しました。こうした建材の使い方ひとつで空間の印象は大きく変わります。浴室にはホテルライクなオーバーヘッドシャワーを導入。高い保温効果、リラックス効果を付加しました。
設備では洗面室に調光、調色機能のある照明も導入しています。メイクをする時には顔に影ができない自然光に近い明るい昼白色を使い、夜や就寝前の入浴時には明るさを落としたオレンジ色の電球色にすることでリラックスするなど、時間、使い方で光を選べる設備です」(石山シニアマネージャー)


ドレッシングルームですらラグジュアリーという驚き
最後はマスターベッドルームです。リビングルームと同じく緑を望む大きなコーナーウィンドウがあるのですが、ここも広さを感じにくい部屋になっていました。
「マスターベッドルームでもリビング同様に空調設備を移設、それによって生まれた空間を利用して間接照明を取り入れ、高さ、明るさから広さを感じられるようにしました。また、以前は隠されていた躯体の壁の少し凹んだところの壁を撤去。お住いになられる方がご自身の生活に合わせて使えるようにしました。
また、窓の位置を考えるとおのずとベッドの位置は決まってきます。そこでスイッチはベッドから手を伸ばせば届く、使いやすい場所に配しました」(岩垂主任)
マスターベッドルームには広いウォークインクロゼットがあります。一般にはクロゼットに使う言葉ではないでしょうが、この空間を現す表現として適切なのは「一見の価値あり」。くの字型の、奥に広がる空間となっており、両側には引き出しも備えた収納。奥の正面には大きな鏡。木目がきれいな棚には照明もしつらえられており、なんともラグジュアリー。進むほどにわくわくする空間でもあります。
外出前にどれを着ていくか、組み合わせを考えて試着するために最適なクロゼットで、単なる収納というより、ドレッシングルーム。おしゃれのための部屋と言うにふさわしい造りです。
「変形を生かした、あまり見たことのない空間になっており、ご覧いただいたお客様からはこのクロゼットとバーは高く評価いただきました。遊び心があるとでもいえば良いでしょうか、単に広いだけではなく、毎日を豊かに、楽しくする、そんな空間に仕上げられたと思います」
海外のリゾートホテルを思わせる開放的なマスターバスルーム
その最後の仕上げとなるのが、マスターバスルームです。ここは奥が見えないウォークインクロゼットと違い、入った瞬間に全貌が見え、声を上げそうになります。一気にリゾートホテルのような趣になるからです。
入って右側には既存の窓を塞いで設えたという壁面いっぱいの大きな鏡、その下にはホテルライクな大型ダブルシンクがあり、水栓、タオル掛け、照明に使われているのは鈍く光るゴールド。そして、ガラスの扉の向こうにはゆったりとした低いバスタブ、その奥には緑を望む大きな窓。窓には電動ブラインドも用意されています。
「私たちはホテルも多数手がけており、その経験を反映しています。このところ、住宅とホテル、オフィスのテイストはどんどん近くなってきていますが、それぞれにノウハウは異なります。そのあたりを上手くミックスできればより魅力的な空間にできると思います」(石山シニアマネージャー)
2026年現在、他2住戸のリノベーションも実施中
長年のノウハウが生きたリノベーションの結果、前述したように長年の空室はあっという間に解消。今後は他の住戸も空室になるタイミングで改修を行っていく予定です。賃料は改修前と比較して168%アップしました。
「時代に合わせて適宜改修することで価値は向上させることができます。先端の設備を導入するのはもちろん、豊かな空間を生むためには遊び心もポイント。実用プラスゆとりとでもいえばよいでしょうか、一定以上の賃料をいただく物件であればそうしたオリジナリティのある空間づくりも大事だろうと考えています」(川﨑支店長代理)
都心には素晴らしい物件が多数ありますが、将来にわたって安定的に選ばれるようにしていくためには適切な手を必要なタイミングで打つことが大事。広く、その意義を意識いただきたいところです。
取材物件
プロジェクト概要
【商品企画】株式会社ケン・コーポレーション 企画部
【設計/施工】株式会社クラフト
