「六本木ヒルズ」10周年、六本木ヒルズレジデンスに時代は追いついたか?

2003年4月25日にオープンした六本木ヒルズは今年満10周年を迎えました。この10年に六本木ヒルズが変えてきたもの、変わらずにいるものから、東京・日本にとっての六本木ヒルズの意味を考えます。

六本木ヒルズ10周年のロゴ
2013年に10周年を迎えた六本木ヒルズ。LOVE roppongiではなく、LOVE tokyoとなっている点に注目したい
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夜遊びの街から仕事の場、暮らす街、子連れで訪れる街へ

六本木ヒルズの誕生から丸10年。目に見えて変わったものと言えば六本木の街自体でしょう。

この街では2003年の六本木ヒルズに続き、2006年に国立新美術館、2007年に東京ミッドタウンが開業、周辺には賃貸、分譲ともに住宅も増えました。その結果、街行く人の数が増え、年代、性別も広がりを見せるようになりました。

「かつての六本木は夜の街というイメージがありましたが、10年後の今、オフィスワーカーが増えたのはもちろん、ベビーカーを押した家族連れも多く、安心して遊びに来られる街、住む街として認知されるようになったと思います」(森ビル株式会社 広報 秋田氏)。

六本木ヒルズレジデンス
東京を代表するタワーマンション

変わったのは六本木だけではありません。隣接する麻布十番は2000年に東京メトロ南北線が開通するまでは「陸の孤島」と呼ばれることもあったほど不便な場所でした。それでも他にない風情、数多くの老舗があり、知る人ぞ知る街としてひそかな人気を誇っていたわけですが、六本木ヒルズ開発に当たっては協働することを決定、現在に至るまで共に街づくりをしてきました。一般的に商店街は大規模商業施設が近くにできることを嫌います。商店街への客の減少を恐れてのことですが、麻布十番は共存共栄していく道を選び、その選択が間違っていなかったことは現在の商店街の賑わいが証明しています。

この共存共栄が成功した要因のひとつは、道一本を隔てて日本の新旧と洋の東西が接する立地の妙です。これは六本木ヒルズレジデンスの魅力のひとつともなっており、特に外国人居住者の人たちには人気とか。「都心の最先端と日本の文化、伝統が隣合わせになった立地は他にないと評価されています」(森ビル株式会社 住宅事業部 中井氏)。六本木は麻布十番があることで、麻布十番は六本木があることで互いの魅力を引き立てあっているのです。

もうひとつの要因は、六本木ヒルズ開発にあたっての、長年に渡る「この街を良くしていこう」という働きかけでしょう。麻布十番商店街は元々、1957年以降広報誌を作り続けるなど、商店街の価値向上に熱心な商店街です。そこに六本木ヒルズに負けない商店街を作ろうという刺激が加わり、麻布十番らしさを追求した結果が現在の繁栄に結びついた、そう思われるのです。

街づくりの成否がどれだけ、そこにしかない価値を創造できるかにかかっているのだとすると、六本木ヒルズと麻布十番の関係は今後の商店街、街の活性化に大きなヒントを与えてくれます。六本木の街もまた、六本木ヒルズ、東京ミッドタウンなどとの相乗効果で大きく発展してきたことを考えると、六本木ヒルズの10年は互いの良さを生かしあう街づくりの意味を教えてくれるものと言えるでしょう。

麻布十番
老舗に加え、新しい店舗の参入も多く、次々に話題の店が登場する麻布十番商店街。インターナショナルな雰囲気が独特
国立新美術館
森アーツセンター、国立新美術館の登場で、アートの街六本木というイメージも定着してきている

社会の意識の変化が六本木ヒルズを再発見した

六本木ヒルズは変わっていないものの、社会が変わったという点もあります。それが防災への意識です。象徴的なのは地下にある自家発電設備への注目度でしょう。「当然ですが、開業当初から設備はありましたし、公表もしていました。しかし、10年前にはほとんど興味を持ってくれなかった。それが東日本大震災で一転、大きな脚光を浴びることになりました」(秋田氏)。

災害があっても自前で電力を作り続けることのできる六本木ヒルズに驚きの声が寄せられ、地震直後に東京都の猪瀬副知事(当時)が訪れたことも話題になりました。それ以降オフィスへの引き合いが増え、森ビルのオフィスも一部が隣のビルへ移動するなど、ニーズに答えているとか。人気の高さが伺えます。

この時の関心はさらに今、世の中を変えつつあります。東京都は都庁に自家発電装置を導入しましたし、中小企業の自家発電装置導入には助成を出し、さらに自前での電力供給の方途を探ってもいます。また、日本橋では再開発ビルのみならず、既存のオフィス街にも送電網を配した地域電力供給事業が計画されています。時代が六本木ヒルズの先進性に気づき、追いついてきたのです。

六本木ヒルズの自家発電システム
東日本大震災後に話題になった自家発電システム。都市ガス、電気の供給が途絶えても3日間は電力を供給できる

防災に関しては、自家発電設備に限らず、六本木ヒルズには学ぶべき点が多くあります。避難してきた人を受け入れるための空間を取ったランドプラン、豊富な備蓄、災害時に役立つ各種設備、日常的に行われる防災訓練などなど、東日本大震災後に多くのデベロッパーがPRするようになった対策はここでは10年前から用意されていました。災害が起こったことで注目されるようになったのは不幸なことですが、安全な街づくりは付焼刃では実現しません。その意味では開業以降、ぶれずに安全を考え続けてきた六本木ヒルズが評価されるのは当然なのかもしれません。

防災訓練
3月の六本木ヒルズの震災訓練と9月の総合防災訓練に加え、救命講習の受講・徒歩訓練その他、森ビル内では頻繁に防災訓練が実施されている

スペックでは語れない価値を紡ぎ出す場所へ

当初からあるものが歳月とともに進化してきた点もあります。それが人と人とのコミュニケーションです。六本木ヒルズでは2004年から自治会が構成されており、日常的に清掃活動などを続けてきました。自治会は住んでいる人、店舗やオフィスで働いている人両方を対象にしていますが、ここ3~4年はそれに加えて、住んでいる人、働いている人それぞれを対象にしたイベントや交流が増え、活況を呈しているといいます。

「都心の、タワーマンションを選ばれる方はご近所づきあいをしたくないだろうという先入観念があったのですが、海外から来た方々がコミュニティを求めていらっしゃることを知り、日本文化を紹介するサロンを始めたのがきっかけとなり、今では各種のイベントに日外問わず多くの方が参加されるようになりました」(森ビル株式会社 住宅事業部 長谷川氏)。

イベント
海外赴任者の奥様向けに始めたイベントだが、今はイベントの内容、対象層も広がり多くの入居者から申し込みがある

マンション内のコミュニティ活動は他の物件でも行われていますが、たいていは企画、運営をアウトソーシングしています。ところが、森ビルではすべてを自社内でやっているため、ひとつの部門での成功は他の部門にも波及します。例えば、レジデンスでの事例はオフィスでのイベント開催に影響を与えています。フットサルや駅伝などのスポーツイベントから、朝活、クラブ活動と内容も多岐に渡り、最近ではその交流の中から新しいビジネスが生まれつつあるとも。シェアオフィスや交流会などで人がつながることの効果が喧伝されるより前に、六本木ヒルズではそうした動きが始まっていたというわけです。

「いまや、住宅もオフィスもハードの性能の差を競う時代ではありません。それ以外の、他にはないものは何かを考えると、長年かけて培ってきた人のつながりや横の連携、そうしたものが、これからの街の魅力を高める要素になってくるのではないかと思っています」(秋田氏)。

ただそこに住む・働くだけではなく、そこに住み、働き、交流することが新しい価値を生み出す六本木ヒルズの街づくりは、そんな方向に移行しつつあるようです。

ここにしかない安心感、それが六本木ヒルズレジデンスの魅力

人間関係というキーワードではもうひとつ、10年前から変わらぬ、レジデンスの独自性も挙げておきましょう。それは人間です。新しく話題になる住宅ができると、六本木ヒルズから転居する人は今も昔も少なからずいらっしゃるそうですが、戻ってくる人も多いといいます。

「特に頻繁にフロントサービスを利用してくださっていた方は、『他の物件でのサービスはどこかビジネスライクな印象を受けた。やはり六本木ヒルズの親身なサービスが良い』と戻っていらっしゃいます。『震災時の対応が良かった、心底安心した』とおっしゃる方もいまだに多く、フロントを始めとした人とのつながりを大事にする姿勢が評価されていると思います」(中井氏)。

コンシェルジュ
24時間体制で入居者を暖かく迎えてくれるフロントマンに我が家としての愛着を感じている人も多い

外からはコンクリートとガラスでできた冷たい建物のように見えるものの、六本木ヒルズのスタッフは意外にお茶目でフレンドリー。ここ3年ほどのハロウィーンイベントでは、いつもは制服姿のフロントスタッフが仮装したり、踊ったりと手作りのパフォーマンスで入居者を楽しませているそうで、そうしたスタッフの心遣いがほっとする我が家という雰囲気を作り出しています。それが他の高額物件にない魅力、安心感につながっているのです。

ここで大事なのは、六本木ヒルズレジデンスが安心ではなく、安心感という言葉で評価されているという点でしょう。安心は言ってみればスペック。食品の成分表や車の機能一覧のようなもので、確認することで安心できますが、安心感はそうした文字情報がなくても得られる、もっと根源的なものです。あの人が言うのであれば、一覧表はなくても大丈夫と思える深い信頼感とでもいえば良いでしょうか、そこに人間が介在しないと生まれないものです。そして、それが六本木ヒルズレジデンスにはあると評価され続けている。これは住まいに安心を求める人にとって非常に重要なことではないでしょうか。

誕生から10年。六本木ヒルズは毀誉褒貶も含め、様々な面で時代の先を行き、社会に影響を与え続けてきました。この歳月の蓄積が次の10年、20年にどう進化するか。これからも六本木ヒルズからは目を離せません。

取材物件・取材協力

【取材物件】六本木ヒルズレジデンス
【取材協力】森ビル株式会社

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